彼女の話

カーテン、そして窓劇場

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彼女は時おりカーテンを開けるようになった。
レースカーテンまでみんな開ける。
暖かければ窓も開けて外の音をきいている。




彼女がいつもの定位置に腰を下ろすと、その真ん前に空が広がる。




”現代社会は空が狭くなった”と言われるようになって久しい。
色んな意味が込められているようだ。
でも人はその狭い空でさえもまじまじと見ることがあるだろうか。
例え空を見上げられるところにいたとしても、
なんとなく気恥ずかしくてずーっとは見ていられなかったりする。




彼女が見ているのは窓枠に囲まれた四角い空だ。
それでも決して小さい空ではない。
窓までの距離が近いから、視界は大空になる。




正確には大部分は空だが、雲と遠くには電柱と電線と木々と時々鳥が登場する。
それから虫。
鳥や虫はあるときものすごく近くを飛んだり窓にぶつかってきたりして
彼女はすごくびっくりする。
それでも大体は四角いスクリーンの中で大きな動きも登場人物もなく、
何か静かな映画でも回っているのを一人で贅沢にみている感覚だ。




彼女が今の城を気に入ったのは、城自体というよりも周りの環境が大きかった。
川があり、散歩道があり、木々があり、橋があり、住宅がある。
求めればすぐに歩いて木立に立つことができ、
それでいて人の生活の気配が感じられる。




さっきまでカバが逆さになったようだと思っていた雲が
いつの間にか跡形もなく消えている。




彼女は何度か大きく息を吐く。
君はいつでも頑張って立っているね、と電柱に話しかける。(心の中で)




だんだん眠たくなってくる。
天気のいい日は眩しくてあまり目を開けていられないから、
薄目でいると眠気が襲うのだ。




また大きく息を吐く。




そうだ、ここはこういう場所だったなぁと彼女は思い出した。
引っ越し前日、何も置かれていない部屋の床に座り込んで、
カーテンも引かれていないまっさらな窓から空をみていたのだ。
カーテンをかけた途端に忘れてしまっていたのか。




最後に今度はわざとらしく息を吐いて、
「今日は、おわりです」と腰を上げた。





-彼女の話

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