彼女の話

何を使うか、何を選ぶか、何を口にするかしないか

投稿日:


彼女は洗った食器を並べた棚に見とれていた。
彼女は鉄製じゃない限り濡れた食器や調理器具を丁寧に拭いたりしない。
セラミック食器もガラス瓶もステンレス鍋も
薄明かりの中で水滴がキラキラ輝いていた。
プラスチックのタッパーにこの輝きは放てない。

彼女がプラスチックを使わなくなって大分経つ。
嫌悪するようになったのは幼い頃のラップの匂いがきっかけだった。
ラップにくるまれたおにぎりが食べられなかった。
大人は口にはしなかったものの、
彼女は自分が神経質で面倒な子だと思われているのを感じた。
分からないではない。
たった一人の食べられない子のために、
大人は何か早急に用意しなければならないのだから。
その気配を感じながらも彼女はラップ味のおにぎりは食べられなかった。
自分は何も要らないとも言えなかった。

大人になるっていい。
何を使うか、何を選ぶか、何を口にするかしないか、
全部自分で決められる。
彼女の場合はそれが行き過ぎて人を敬遠しすぎてきたきらいはあるし、
今でもプラスチックの恩恵をたくさん受けている。
それでもそれらを避けて送る生活が
彼女自身を安心させてきたのも事実だ。
自分にとって安全で使っていて心地よさを感じられることは
誰にとっても生きるのに大切なことだ。

プラスチック汚染が話題にのぼるようになって久しい。
彼女は正直に言って思わぬところから助け船が出たような気持ちでいる。
どんどんどんどん拡がればいいと思っている。
そうやって助けられるのはクジラやトリや大気の問題だけじゃない。
マイカトラリーを持ち歩いても変人扱いされない、
肉屋にアルミやホーローの容器を持って行っても面倒臭がられない、
ポリ臭さを嫌う彼女のようなヒトたちも窮屈じゃなくなる。
この期に及んでまだ人間の(彼女の)都合かと思われても
それもまた本当のことなのだ。

-彼女の話

執筆者:

関連記事

渇き

渇き

また新しい年が明けた。 平成が終わる。 平成最後の。 時代が変わる。 あらゆるメディアがうるさいほどに謳う。 彼女にはなんの関係もないことだ。 その日彼女は脱水症状でぶっ倒れていた。 年が明けたばかり …

彼女が死ぬとき

彼女が死ぬとき

彼女は願っている。 自分が死ぬとき それは誰かが生き延びるとき。 彼女は死をとても恐れている。 死ぬときのことを思うと怖くて怖くてたまらない。 死ななければならないのに、どうして生まれてきてしまったの …

noimage

吐き出される夢

しばらく会わない間に彼女は大量の夢をみていた。 彼女は夜でも昼でも眠る前や、ただ風を感じようと目を閉じた瞬間に 前夜にみた夢をふと思い出すことが多い。 正確には夢を思い出すというよりは、夢の雰囲気や夢 …

noimage

彼女の右後ろと左斜め前

彼女はいつの頃からか死をごく親しみのある近しい存在に感じるようになっている。 いつ、どうしてそうなったのかは分からないが、 彼女は”それ”が”そこ”にある、ということを感じるのだ。 ちなみに”そこ”と …

ざわざわする

ざわざわする

彼女はざわざわすると言って落ち着かないことがある。 それは「心臓がいつもの場所から2cmほど重く浮かんだり沈んだりしている」感じだという。 動悸がする。 眉間にはずっと力が入ったままになる。 ときどき …

noimage

2020/03/17

意味

noimage

2020/01/31

メロディの輪郭

noimage

2020/01/29

真くろの向こう

記事内の彼女の絵や写真。
2020年9月
« 3月    
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  
This error message is only visible to WordPress admins

Error: No connected account.

Please go to the Instagram Feed settings page to connect an account.

にほんブログ村 メンタルヘルスブログ HSPへにほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へにほんブログ村 美術ブログへ