彼女の話

生活

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生活。
生活用品。
生活費。
生活音。
生活保護。
‥‥

生活というだけで候補ワードがズラズラでてくる。
生活ってなんだろう。

生活という言葉がよく彼女の頭をよぎるようになった。
生活、生活、生活…
格別意識しているわけではなかったが、
一つ思い当たることと言えば、音かもしれない。

映画をみていた彼女は登場人物が食器を鳴らした音が妙に気になったという。
かちゃり。
こ、 こち。
静かな台所に食器と食器がかすかにぶつかる音。
どきりとしたが、しばらくそのことは忘れていた。

思い出したのは自分の暗いキッチンでその音が再現されたときだった。
想起されたあの時の感興。
彼女は突然自分が映画の中にいるような気分になった。
その映画がなんだったのかも思い出せなかったが、
とにかく静かに淡々と食器を片付ける登場人物の後ろ姿のシルエットがあっただけだった。

彼女はもう一度、そしてもう一度と、
食器をしまいながらその音を楽しんだ。
それはバタバタがちゃがちゃとやってはならず、
あくまで丁寧にそっと置いてやらなければ響いてこない音だった。

これまで何度も繰り返してきた作業の
改めて気付いた生活の音。
それはステンレスキッチンの天板にガラス瓶が置かれる音だったり、
ウィルキンソンの瓶のふたをぺちっと置く音だったり、
鍋がぐつぐつ言う音だったり、
加湿器のしゅーしゅー音や
物干しざおを取り込むときのかたっかたっといった音だったり。
生活の少しの音を聞くたびに彼女はその一瞬が
静かで丁寧な映画の1シーンになったように感じられた。

生活ってなんだろう。
生活。
彼女の答えはでない。

-彼女の話

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