彼女の話

おばあちゃんズ

投稿日:2017年2月17日 更新日:

彼女は人の話を聞くのが好きだ。
それも自分と全く関係のない人たちの話を聞くのがいい。


彼女がバス停へ向かうとおばあちゃんAが座ってバスを待っていた。
少し離れたところに彼女も腰を下ろした。
その後もうひとりおばあちゃんBがやってきて、おばあちゃんAを挟んで向こう側に座った。

おもむろにおばあちゃんBが『おたくは近くですか』とおばあちゃんAに声をかけた。
『いえ、ちょっと歩いたところです』とおばあちゃんAは答えた。
彼女はイヤフォンの音量を下げた。
彼女は特にこういった年配の人の話にただ一方的に耳を傾けるのが好きだ。


そのくだりからするとふたりのおばあちゃんは初対面のようだが、
まるで昔からの知り合いのようにもういつの間にか
家はどこだ、息子がどうだ嫁がこうだと話をしているのである。
彼女はいつも老人たちのこの垣根のなさがおかしくてたまらない。
きっと長く生きてきた者同士のあ・うんの空気がそうさせているのだろうとわくわくする。


おじいちゃんがうっとうしいと愚痴るおばあちゃんBに
未亡人であるらしいおばあちゃんAがひとりの寂しさをひとしきり説いていた。
そして、おばあちゃんBが、でもじいさんはちゃんと自分の葬式代100万を貯めているのをこっそり通帳を盗み見て知ったんだと話したのを聞いて彼女は思わず吹き出しそうになった。
おばあちゃんAは感心したように驚いていたが、おばあちゃんBはそれはどの部屋のどこぞの引き出しのきれいな箱に印鑑と一緒に入れてあったのだと
もうあられもなくすべてを話すのである。
彼女は笑いを堪えながらとっさに周りを見回した。
このおばあちゃんはもうさっき自分の家がどことまで話してしまっているし、
もし悪い人が聞いていたら30分後には100万円が消えていてもおかしくないのだ。

おばあちゃんBが、まあそんな100万もあっても葬式に使うのは少しであとは残しとくんだ、と言い放ったのを最後にバスが来た。


彼女は溢れんばかりのふたりのおばあちゃんのオープンマインドに
齢を重ねるというのはこういうことかなぁ、それなら素敵だなぁと考えながら
ヨタヨタとバスに乗り込むふたりの後ろ姿を見送った。


-彼女の話

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