彼女の話

渇き

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また新しい年が明けた。

平成が終わる。
平成最後の。
時代が変わる。
あらゆるメディアがうるさいほどに謳う。

彼女にはなんの関係もないことだ。


その日彼女は脱水症状でぶっ倒れていた。
年が明けたばかりの美しい青が広がる日だった。

ぶっ倒れていた、といっても、
いつもの彼女だった、といえばそうなのだ。
ベッドの上で壁に顔を向けて横たわっていただけなのだから。

僕は彼女の顔を覗き込んで、随分肌が乾燥しているなぁ、ぐらいに思った。
異変に気付いたのはふとんをかけ直してやろうと思って
ふわりと羽毛布団を引っ張り上げたとき、やたらと中の空気が熱いのを感じたときだった。

”あれ、熱があるな”と思って、僕は彼女を起こしにかかった。


彼女は胃腸炎になっていた。
でもどんな小さな風邪でも、大病でも、一番怖いのは脱水症状だ。


脱水症状というのは不思議だ。
命に関わるほどの渇きであるはずなのに、人はそれに気づかない。
例えばライオンが背後から襲ってきたら、人は即座に命の危険を察して本能的に動くのに
同じく生命を脅かす渇きにはひどくひどく驚くほどに鈍感なのである。
ただじわじわと失っていくに身を流してしまう。


ただし彼女は自分が脱水症状を起こすだろう、と気付いていた。
どうして彼女がそのまま眠ってしまったのか。
それは少し眠っても大丈夫、と知っていたから。
彼女は自分の内面に起こっていることを分かっている。


渇きに気付いていること。
休みながら動いてもまだ大丈夫だと知っていること。
眠りが初動を起こすに必要だと分かっていること。



いつ時代が終わり、いつどんな新時代が、どんな熱を持ってこようと
それは僕たちにはあまり関係ない。
ただ享有する内からの熱と渇きを大事に欲動に変えていくだけなのだ。
彼女が自分の足で救急外来を訪ねたように。

渇き

-彼女の話

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