彼女の話

ある朝

投稿日:

彼女はもう何年も飲まない日の方が少ない毎日だった。
飲みすぎることも時にはあったが、ほとんどは彼女の日々のささやかな楽しみであった。



ある朝彼女はいつものように目を醒まし、
いつものように布団から抜け出してカーテンを開けた。
やわらかな明るい日差しの朝だった。

半分ぼんやりとした意識で半分ほど残った白ワインのボトルが目に入った。
前の晩に飲んで、冷蔵庫に入れ忘れたものだった。


しばらく(、と思ったが実際はそう大して長い時間ではなかったかもしれない)
置き去りになったボトルを眺めたあと、彼女はそれを手に取って
固くしめられていたスクリューキャップを回し外した。

ふ・・・っ。


ボトルの中にこもっていた何かが音をたてたような気がした。


それから彼女は何の気なしに中身を排水溝に流し入れた。
昏い昏いどこまでも続きそうな黒い管の中に
こぷこぷこぷこぷ、と小気味よい音を鳴らしながらその金色の液体は姿を消していった。

そしていつも通り水をいれて中をそそぎ、乾燥させるためにひっくり返し立てかけた。

空になり逆さまになって傾いているボトルをまたしばらく見ていた。
まだ眠たいような気がした。



この日から彼女は全く酒を飲まなくなった。



-彼女の話

執筆者:

関連記事

彼女のおでかけー駅

彼女のおでかけー駅

彼女が駅をつかうようになったのはごくごく最近のことだ。 彼女が生まれ育った場所には駅はなくほとんど小説の中の想像上の場所だった。 ラピュタみたいなものだった。 今彼女が住む町には駅がある。 ベッドタウ …

noimage

安心のための食いしばり

彼女の城は彼女にとって大体は心地のいい場所であることは間違いないが、僕はそこで落ち着かない。冬の彼女の大事なパートナーコタツはテレビの正面に配置されている。映画をみるときの彼女の定位置だ。ただしコタツ …

noimage

距離

「なぜ自分のものさしだけで私との距離を測るのか」 「ズカズカ入ってこようとするな、理解しようとなんてするな」 「気を遣ったようなフリをして、私のことを分かったような物言いはやめろ」 距離がとりにくい人 …

noimage

バランスボールの中の小人

彼女は自分の中で何かが急速に変化していくのに気付き始めた。 まるでバランスボールの中にいつの間にか閉じ込められた小人みたいな自分。 どんなに抜け出そうともがいても、もがいた方向に転がるだけで突き破れな …

彼女に触れるもの

彼女に触れるもの

彼女はピッタリ肌にはりつくような服は嫌いだ。 窮屈で身に着けたがらない。 ダボっとしたのやふわふわした服をよく来ている。 ワンピースは好きだ。 もちろんチクチクする化学繊維のニットやマフラーなんかもよ …

noimage

2020/03/17

意味

noimage

2020/01/31

メロディの輪郭

noimage

2020/01/29

真くろの向こう

記事内の彼女の絵や写真。
2020年9月
« 3月    
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  
This error message is only visible to WordPress admins

Error: No connected account.

Please go to the Instagram Feed settings page to connect an account.

にほんブログ村 メンタルヘルスブログ HSPへにほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へにほんブログ村 美術ブログへ