彼女の話

彼女と夏

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夏は子供のころから彼女に懐かしい何かを感じさせる。
自分に何か大きな転機が訪れるとするなら
冬でも春でもなくそれは夏だろうと今でもなぜか確信している。


このまとわりつくような暑さと、生の匂いのような緑の青臭さが鼻先に触れたとき
彼女は何か白いものが自分のそばに近づいてくるような気がしていた。
そんな時、彼女はふと後ろを振り返ったり窓に近づいてみたりした。
それは新たな生なのか、はたまた死のようなものであるのか分からないが、
恐怖などはなくそれはむしろ自分を包み込むために迎えに来てくれるものだと思っていた。
そんな子供のころの感覚は最近では感じる、というよりその時の感覚を思い出すに過ぎないが、
あの頃から今もどうしてだが懐かしい、と思うのだ。


あの白い存在について考えるとき、彼女は決まって同じことを思い出す。
その頃もう高校生くらいにはなっていたから、
彼女もすっかり「みんなと同じ言語」を十分に操れるようになっていたはずなのだが、
その夏それまでにないくらいのハッキリとした白い存在の感覚に興奮して
うっかり友人に話したことがあった。
それまでは自分の感覚や言葉では伝わらないだろうと誰にも口外することはなかったが、
案の定その時の友人は『彼女の王子さまは白馬に乗って夏にやってくるらしい』と笑った。
その友人も彼女をバカにしたわけではなく、なんと純粋なことかと笑ったのだろう。
彼女は仮面上取り繕って笑ったが、自分の言葉が全く伝わっていないという
あの幼いころの途方もない寂しさを久々に体感して自分はまだ違う星にいるのだ、と確認した。
これはみんなにはない、自分だけの感覚なのだ、と。

本当に白馬に乗った王子ならどれだけいいだろうか。


前述したように何かの転機であることを確信している彼女は、
そんな懐かしさに身を包まれながらも少し警戒して過ごしている。
事実今までこの季節にはろくなことがなかったのだ。
「白い感覚」は決して嫌なものではない、が、生も死も感じる何かなのだ。
大きく柔らかく白いそれはこの夏も彼女を包み込もうとしているのだろうか。


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