彼女の話

彼女と誰か

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彼女は唐突に気づいてぎょっとした。

ちょっと待て。


だれかいる。



一体自分は誰なのか、どれが自分なのか、という問いに彼女ははからずもがんじがらめになっている。
ただ、少なくともその”自分”たちをある程度把握している、という自信みたいなものがこれまでの彼女にはあった。
職場の自分仮面、友達自分仮面、もっと言えばいつも行くスーパーや図書館での自分仮面・・・
細かく分ければ100も1000も、これまで彼女が出会ってきた人や生き物の数だけ仮面が出てくるだろう。
それらを目の前にする度に彼女はいつだってその時自分の身に着けるべき仮面を意識していたのだ。

それなのに。

自分も知らない仮面がある。
それがどんなにかおそろしいことか。

気付いた時、彼女は巨大物を見たときに似た、
足がすくむというかおしりがふわっと浮くというか、
とにかく悪寒が止まらなかった。


自分が自分に対してかぶっている仮面がある。


それはとても複雑で不思議な感覚だった。
自分という未知のものへの恐れと不安と、
ずっとずっとずっと誰にも気づかれずに、「私」自身にも知られることなくただひっそりとそこにいたなんの感情も実態ももたないそれへの畏怖と同情と、それから無性の愛しさ。


そして思った。
自分は自分じゃない。
自分の仮面の下にいる、この人が本物だ。
何も感じず、でもくすぶっているのはこの人だ・・・!!


彼女は自分がどんなにかバカバカしいことを言っているか分かっている、と言った。
これまで大人や人は自分のことを少しおかしいとか変わってるとか言ってきた。
今はそれが分かる気がする。
人は前から気づいていたのに自分だけが気づかないでいたのだろうか、
自分の後ろにいた人物の存在に。

-彼女の話

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