彼女の話

彼女に似た人

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彼女は人の多いオフィスを訪れたとき、
昔の職場であった女性のことを思い出した。
どこか自分と似ていると思いながら
同情心とイラつきを同時に持っていた。

その時彼女は1フロアに100人以上はいるような
かなり大所帯の職場にいた。
最低限のコミュニケーションをとればあとは一人でもこなしてしまえる仕事で、
慣れて集中できるようになると集団の中の孤独。
ざわざわした雰囲気の中で見えない小さなドームが自分の周りにできた。
そこそこ気に入っていた職場だった。

それでも最初の頃は多くの刺激に悩まされた。
頭痛やら腹痛やらぐったりするほどの疲労があった。
それでも彼女は最初の3か月は絶対に休まないと思った。
どんなに具合が悪くても行きたくなくても休まない。
大して赴く必要のない日でも家をでて職場へ向かった。

彼女は自分のことを分かっていて、
ツラいで一度けつまづくと、そのあと起き上がるのに相当苦労することが分かっていた。
それから慣れることができる、ということも分かっていた。

彼女がそこへ行きだして2年近くたったころ、
女性が一人入ってきた。
猫背で人目を気にし、自信なさ気で自己主張がやや不自然。
会話中に目が泳ぎがちで、そして気遣ってほしたがり屋の顔色の悪い人。
というのが彼女の受けたその人の第一印象であった。
ひどい先入観をもたれてしまったその人が気の毒としか言えない。

だが、おそらく彼女は大的を外してはいなかったかもしれない。
なぜならその印象はそっくりそのまま彼女のものでもあるからだ。

彼女とその人の大きな差は仮面の厚さや種類や熟度にあったかもしれない。
彼女は女優並みに別人の姿で外の世界にいる。
いつも元気で人をよく笑わせ、同調しつつも自分の意見っぽいものも言ってみる。
私繊細だからなどというと大笑いされるほど完璧にやりこなす。

だから彼女はおどおど仕事をするその人を目にすると、
いつも「足りない」と思った。
何が足りないと感じていたのか分からないが、
「沼にはまって明日にでも足元をとられそうだ」と。

そしてその次の日、その人は欠勤したらしかった。
「はまった。あとはもうズブズブだ」
彼女はまるで自分のことのようにその人を感じていた。

彼女はその人が完全に環境にやられているように見えた。
多くの人、彼らに追随する様々な音、いくつものエアコン、
PCなんかのあらゆる機会の音や温度、新しい人間関係、
意味不明なはじめて聞く言葉たち。
それらに反応する動悸という名の過剰な内なるセンサー、
新人ならではの緊張、 焦燥感、見られて震える手元。
彼女はその人が何度も頻繁に席を立って部屋を出て行くのみた。
そうやって一人にならなければ保てなかったのだろう。

そうこうしているうちにその人は週に1日か2日しか来なくなり、
いつの間にかいなくなっていた。

もしかしたらその人は何か大きな決意であの場所に飛び込んできたかもしれなかった。
やってみたものの転び続けた。
おどおどでズブズブでも不安定な自分をそのままみせた人。
それはそれで強さだ。

小さなイラつきを感じながら彼女はその人に羨ましさがあったのだ。
仮面は青すぎても不便だが、
手垢まみれになっていてもいいということはないのだ。

-彼女の話

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