彼女の話

沿線生活

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彼女は昔お金がとてもなかったとき、
線路沿いの安いアパートに住んでいた。
すごく安かったけど、すごくうるさかった。


騒音や刺激に打たれ強い人だって線路沿いの部屋は安くても避ける。
だれだって静かな生活を望むものだ。
当時の彼女は自分のことをまだよく知らなかったので、
安くてきれいだということでとりあえず入居した。
担当した不動産屋の男は電車の騒音は誰でも2,3ヶ月で慣れるようだと話した。
なので彼女もそうかそうか、そんなものかぐらいにしか考えていなかったのである。


実際は何か月経っても慣れなかった。
騒音はもとより、電車が通る度に地鳴りのように響く振動にいちいちビクついていた。
急行が走ると音も振動もさらにひどかった。
おまけに近くに踏み切りまでついてくるというパーフェクトな物件で、
あの警告音が毎回彼女の体を緊張させた。


幸い貨物列車が通る沿線ではなかったので、夜眠る時間には静かだった。
ただし、鉄道会社は時たま夜中に点検作業をするのだ。
それは線路のチェックだったり、騒音を軽減させるための調整だったりした。

初めてその夜に出くわしたとき、彼女は戦争だ!と飛び起きた。
その前に鉄道会社からお知らせはきていたものの、すっかり忘れていたのだ。
とにかくすごいライトをまとった戦車みたいな機械が
真夜中に異常なほどの奇怪な大音量をあげながら線路の上をのろのろ進むのである。
一体何が起こったのか、何の事件なのか?!と彼女はカーテンの隙間から
様子を覗き見ていた。

しばらくして戦車は彼女のアパートの前を轟音と共に去っていった。
イカ釣り漁船並みに周りを煌々と照らしていた戦車がいなくなり、
暗闇の中で彼女は茫然と突っ立っていた。
一体なんだったんだ、今のは、とバクバクする心臓でしばらく寝付けなかった。


次の朝、夢だったのではないか、などと思っていたが、
ふとあのお知らせを思い出して引っ張り出した。
こ、これだったのか、と目を丸くした。
一枚の紙切れ告知で済むような騒動ではなかったのではないかと当時は思った。
あんな大ごとならばもっと大げさに教えておいてほしいと少し腹さえ立てた。


しかし後にはお知らせにしっかり目を通して手帳に書き、
その夜眠る前に今夜はアレが来るのだ、ときちんと意識して眠ることで
以前のようにあの素っ頓狂な音に飛び起きることもなくなった。
いつも目は覚めるので、時々しか見られないそれをこっそり覗きみる余裕もできた。
今では誰にでも見られるものではなかったのだなとさえ思っている。


-彼女の話

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