彼女の話

静けさと感情でいっぱいの場所

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彼女はときどき美術館に行く。
行ったことのない遠くの美術館へも気になる展示があれば出かけていく。

美術館は大抵街の真ん中にあったりして、
駅の改札を抜け、雑踏を抜け、美術館の入り口を抜けると突然ロビーの静謐が彼女をふんわりと包む。
あの感じが彼女はたまらなく好きだ。
「忙しない街中をよそにそこだけがぽっかりと素知らぬ顔で、しかしどっしりと時間を停止させている。」
家を出てからここへ辿り着くまでに一緒に連れてきてしまったいろんな刺激や感情をそっと払い落とすように、
彼女はロビーでしばらく目を閉じて座っている。


それから美術館の人たちは大抵どこでも穏やかだ、というのもいい。
せっかちな人や、愛想の悪い人はあまりいない。
たくさんの作品を観る前はなるべく心静かにいたいので、
他人の気分に影響されやすい彼女にとってはとても助かるのである。


展示エリアへ入っていくとそこはもう感情が満杯に詰まった箱のようなものだ。
どんな無名でも有名でも関係なく感情のない作品はない。
ひとつひとつがそれぞれの方法で主張してくる。
「うまく言えないけど、それは作品から色がついた小麦粉がぱーんと舞っている感じ」だという。
展示スペースはいろんな色の小麦粉でいっぱいなのだ。
「だからのどが詰まって苦しいような気がしてくる」


彼女は何かを鑑賞するということはとても疲れる作業だと思っている。
みて、相手の何かを受け止める、自分から何かが生まれる、そしてそれらを心のどこかに留め置く。
そしてまたみる、受け止める、生まれる、留め置く。
作品を眺めながら延々とその作業の繰り返し。

みおわった後はへとへとに疲れて、再び静謐のロビーで目を閉じて座っている。
せっかく出てきたのだから少しブラブラして帰ろうかと思いながら家を出ても
大抵それは果たされずに帰宅することになる。


それでも彼女はしばらく城にこもっているとおしりのあたりがムズムズしてきて
あの小麦粉の世界を求めてまたいそいそと出かけていくのだ。


-彼女の話

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