彼女の話

人が好き至上主義者と彼女

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彼女には劣等感がある。
幼いころは大きくなれば他の人と同じように周りとうまく付き合っていけるだろうと思っていた。
今自分がそうできないのは、まだ小さいからだと。
今は算数ができないけれど、大人になればできるのだと。
でも実際は算数も人付き合いもあの頃のまま、できないままだ。


彼女の職場の人たちは
人が一番大事、人が好きでいられるならなんだって大丈夫みたいな人たちがいて、
そんな彼らの話に彼女はいつもついていけないでいる。
正直なところ辟易しているのだ。
人が好き至上主義、大変結構。
「それは分かったから肝心のその方法を教えてくれ」

彼女は思う。
あの人たちはそういうことで優越感を感じたいだけだ。
もったいないよって言いながら人嫌いを否定して損してるって見下したいだけだ。
「言っとくけどそれはあんたらが努力して得たものじゃあない。
幼いあんたらに周囲がくれた信頼という才能だ。
もらったものをフリカザシて偉ぶるんじゃない」


最近彼女は荒んでいるのだ。
こんな風に人が好きな彼女の同僚は、事実とてもいい人たちなのである。
彼女は大変甘やかされていると言ってもいい。
当初彼女もそう信じて、なんていい人たちなんだろう、と思っていたし、
いまだって100%そう思っていないわけでは決してないのだ。


僕が思うに彼女は年のわりに純粋すぎるのかもしれない。
どんないい人にだって、イラつくことや許せないことはあるだろう。
そうでなければ人間じゃない。

でも彼女は”いい人”だと思い込んでいた人が、
『あいつせっかくセッティングしてやったのにすっぽかしやがって頭おかしい、もう絶対つるまん』
とか
『あの人あんなところで一時停止して絶対頭悪い』
とか
そんなイラつきの一端を耳にしただけでものすごく驚いてしまうのだ。
「え、なんで、この間までその『あいつ』のことめちゃめちゃいいやつだって紹介してたじゃん、
すっぽかした理由を考えてあげないの、なんかあったのかなって思わないの。」
「この人、あんなに人が好きって言いながら、この数秒見ただけの知らない人に頭悪い診断下しちゃうんだ。
疲れてるのかもしれないじゃん、後ろで赤ちゃんが大泣きしてるのかも知れないじゃん、
大切な人への贈り物が揺れ落ちて心配になっただけかも知れないじゃん。
だからだから少し止まっただけかもしれないじゃん」
「この人たち、どういう人たちなの。
人が好きって、、自分が気に入ってる人たちは好きって、その人たちだけ大切にするって、そういうことなの。
だから私にも優しいの、それが人が好きってことなの」
そして彼女の大脳は悲鳴を上げ始める。
「人ってなに」


人が好き至上主義者たちも、心底本気でそう思っているかもしれないが、
その日は単に機嫌が悪かったのかもしれない。
彼女も同じだ。
彼らが悪態をついてしまった理由を考えるに至っていない。


彼女はあまりにも狭すぎる世界で生きている。
人間は0か100で作られてはいない。
美しいものだけを見て生きてはいられないのに、
どうにかそうやって生きていきたいと思っているのが彼女なのだ。
それが彼女の世界を狭めているのだ。

-彼女の話

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