彼女の話

メロディの輪郭

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涼しくなってきて、彼女は職場への道を再び歩くようになった。
イヤフォンを使うことが少なくなった。
空想の宇宙から離れて目の中に入ってくるものを見ている。
うつむいた先に安物の革のぺたんこ靴、顎を上げると雨でかさの増した川、
その手前の桜の幹にはびこる毛虫。
ぎょっとして身も目線もどこぞに泳ぐ。




目の中に入ってくるものを見る。

ただ見る。何も考えない。

それは焦燥の現代を生きる僕らにはすごく難しい。




音楽やスマホやおしゃべり、空想に妄想に将来のこと、
遅刻や天気やお金のこと、楽しみや不安やさみしさのこと。
僕たちを創る様々に大切な塵埃たち。
目に入ってくるものを見る前にそれらは粉塵となって目の前のものを背景化する。




だからといって
見上げた公園の木々の紅葉と青空のコントラストが美しい、
などと見るものすべてにイチイチ心を動かしているわけではない。
むしろ何も感じていないのかもしれない。




食器洗いを手に取る。

自ら掴んだ手の中のコップ。こすられるコップ。手を離れて置かれるコップ。

コップから垂れていく滴と泡。

-彼女の話

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