彼女の話

彼女のおでかけーお化粧編

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彼女は街へ出かけるとき割ときちんと化粧をする。
普段仕事に行くときはほとんど頓着しないが、
それは職場でそんなことしたって意味がない、と思っているからだ。



彼女は化粧をするとき、顔がキャンパスだとよく思う。
顔に何かを塗りたくるときはスケッチブックと違って色が使えるのが
彼女にとってはどことなく可笑しい。


彼女はファンデーションはほとんど使ったことがない。
日焼け止めで肌の表面を均一化させたあと「絵の具」を塗っていくのだ。

彼女の城は基本的にいつも暗めなので、顔が濃ゆくなりすぎないように気をつける。
アイシャドウの色は季節ごとに変える。
イエローとブラウンは気に入っているのかよく使うが、
周囲に好評なのは夏のブルー系なのである。

アイライナーをひくとき、いつもキャンパスを意識する。
アイライナーは黒しか使わない。
顔がキャンパスだと思って、アイライナーを筆だと思うと
絵を描くときと同じだから適当にうまくひけると言う。

口紅はしっかりつける。
季節と気分で色は変えるが、乾燥しやすいので白色ワセリンを下地に塗る。
天ぷらを食べた後の唇みたいにテカテカするが、
少し派手めのリップを塗って彼女のおでかけ仮面は完成となる。



彼女は鏡を見るとにんまり笑うという癖がある。
それは笑った方が不機嫌そうな自分を見るよりずっといい、という理由もあるが、
真顔の自分に直面するのが怖いからだと最近気づいた。
鏡を見ていると、自分ではない他の誰かがそこに映っているのに気づく。
見ていると吸い込まれそうになっていく。
次第に顔がリラックスしていく。
その内だんだん片側の口角だけが上がって、目は細くなり、
どこぞの誰かを殺して満足した「してやったり」の表情筋配置になっていく。
それは絶対に彼女にはできない邪悪な顔。
”お前を動かしてるのはお前じゃない”。


彼女はそんな誰かに乗っ取られないよう鏡を見るとにんまりと笑う。
特にチークを塗るときはにっこり笑う。化粧映えもするしね。



仕上がった彼女は時々考える。
こんな時男性はどうやって仮面をつけるのだろう。
電車に乗ったとき正面に座っている地味な俯き加減の若い男を見て
彼が自信なさげに見えるのは化粧しないからじゃないだろうかと漠然と考える。



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