彼女の話

消えた野良犬たち

投稿日:

彼女は『平成狸合戦ぽんぽこ』が大好きで何度も観ている。


ある人と地域猫の話をしている時、彼女はふと
そういえば最近野良犬を全く見ない、と気付いた。
地域犬というのは聞きませんね、と言うと
その人は『犬は保健所に連れていかれるからね』と教えてくれた。
危険だとか汚いだとか子供が心配だからとかいう理由で通報され、
野良犬たちは保護捕獲されていくのだという。

「人間はホームレスがいるのに、犬は野良でいることさえできないんだ」
彼女は思った。

ホームレスだって望んでなった人もいれば、
そうとは意図せずそこに辿り着いてしまった人もいるだろう。
そこまでの過程に関わらず、ホームレスであることしかできなくても
ホームレスとして今この瞬間存在することをある意味許されている。

そこから例えば救いの手が差し伸べらたとして、
よし社会復帰のためにもう一度頑張ろうとする人もいるだろうし、
いや、自分はホームレスのままで気楽なんだ、ありがたいけど遠慮しとくよという人もいるだろう。
人間は”選択”することができる。

野良犬は野の良い犬って書く。必ずしも悪さをするわけではない、
好きに生きてるんだ、ほっといてくれ。
通報の理由だって人間のエゴだ、なんもされなけりゃなんもしないよ、
勝手に連れて行って、行き(生き)場所を決められて、さもなけりゃ殺されるだなんて冗談だろ。

彼女は頭の中でだんだんと『ぽんぽこ』の狸たちと野良犬たちが重なるような気がしてきた。
悲痛、と浮かんで胸がきゅうんとした。
以前は当たり前にいた彼らがそんなことになっていたなんて、
自分はどうして今まで気づかなかったんだろうとぞっとした。
こんな風に知らない、というだけで駆逐されている存在が
世の中にはどれほどあるのだろうか。
いつの間にか消えていた、という存在が。


その人の知り合いのおばさんは山に8匹ほどの野良犬たちが集まっているのをある時見つけ、
それから毎朝バイクを走らせて餌を運んでいたという。
どれほど続けたのかはわからないが毎日8匹分のエサは大変な量だったに違いない。
万福寺のまわりに二本足で歩きながらおばさんが運んでくる食事を待つ彼らの姿を想像した。
彼女は少し悲しい笑顔を見せて黙った。




<補足>
野良犬対応については自治体によっても違うようですし、
彼女の聞いた話もすべてが正しいものとは限りません。
保護されて幸せに暮らしている元野良たちもきっといると思います。


-彼女の話

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