彼女の話

彼女のカトラリー

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彼女のカトラリーはほとんどが木製だ。
ステンレスなど金属のものは調理用に使うことはあっても口はつけない。


いつの頃からそうなったのかは分からないが、木のカトラリーを使いだして久しい。
子供のころから彼女はあの固い金属が自分の唇や舌や歯に当たるのが不快だった。
しかも冷たい食べ物はひどく冷たく、
熱い食べ物は唇を近づけるだけでそのステンレスにこもった熱が感じられて口が当てられなかった。
(ちなみに彼女は猫舌だ。)
彼女が小さな頃から食べるのが遅かったのにはいろいろと理由があるが、
食器もそのひとつだった。


その点、木製のものはいつだって優しく柔らかく温かい。
だから口当たりがよく安心して食べ物を口の中へ持っていける。
手に持った時も軽くてとてもしっくり手になじむ。
スープスプーンやレンゲはどうしても分厚いものが多いから、
あまり大きく口を開けられない彼女には少し大変だが、それでも金属製よりずっといいのだ。


彼女は食器もすべて木製に変えてしまおうかと考えたりもした。
今でも時々お店やネットで目につけば吟味してしまう。
ただ木製というのはケアに手がかかるのだ。

普通の食器のように水につけておくということはできない。
ヒビ割れやカビの原因になるし長持ちしない。
スープや油っぽいものがついた時は先にペーパー類できれいに拭きとらなければならない。
それから手洗いする。
ひどい汚れでない限りできるだけ食器用洗剤やスポンジも使わない方がいい。
もちろんすすいだ後は並べてきれいに乾燥させる。
それから定期的にオリーブオイルなんかの植物油を少量なじませて乾かす作業も必要だ。

これをすべての食器でやろうとすると広げて乾かせるような大きいキッチンもなければ時間もない。
せめて口をつけるカップだけでも変えようかとは思っているようだが今のところ購入には至っていない。



彼らは繊細だ。
いくら天然木であっても加工された後は土に根を下ろしていた頃のようにもう強くない。
彼女は木のカトラリーに油を塗り込みながら面倒だな、と思いながらどこか自分と重ねている。
無理なく上手に付き合っていかなければならないと。


-彼女の話

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