彼女の話

青りんごの彼女

投稿日:

彼女は自分のことを話すのがあまり得意ではない。
そのせいで言葉足らずになって誤解を受けることも多い。
彼女はそれをものすごく気にする。


人は自分のイメージで話をすることが多い。
自分が青リンゴとして話していても
話しているうちに相手は自分のことを赤リンゴだと思っているかもしれない。
そうやって相手が想像しうる他の可能性があるかもしれないということを失念して話し続けてしまうと
どこかで話がなんだか噛み合っていないことに気付く。

話終えた後で何だかしっくりこないこの感じを考えていると、
その他の可能性たちに気付いていく。
そうか、相手は自分を梨だと思っていたんだ!とか。


彼女は誤解を解かなければとそればかり考えるようになる。
どう伝えたら自分が青リンゴだと分かってもらえるのだろうか、
相手に梨だと思わせてしまった要因は何だろう。
分かってもらえないとしても赤だって青だっていいから
せめて自分はリンゴなのだと伝えたほうがいいじゃないだろうか。
相手も青リンゴの可能性をもっと考えてよ。
青リンゴだから心配だとか無理だとかちょっとおかしいとか思われたかな。
青リンゴも色々だって伝えなくちゃ・・・

こんなことが彼女の脳内でめまぐるしく延々とぐるぐるぐるぐるし続けているのである。
さらに誤解を解くタイミングはいつがいいだろうか、とか
神妙に話すほうがいいだろうか、かるーく小話でまとめるがいいだろうか、
などなど付け加えられて彼女のソワソワは止まらない。


しかし彼女もこれまでの経験から分かっている。
自分が気にしているほど相手は自分が赤だろうと青だろうと梨だろうと気にも留めていない。
改めて説明の機会を設けたところで、へーそうなんだねで終わるか
この人まだその話してると思われるか、ちょっと自意識過剰ではと思われたりする。
大概彼女の思惑通りのリアクションは得られないし、
おかげで彼女もそれまでの思考の炎が不完全燃焼を起こしてプスプスいうことになる。

自意識過剰というのは見方によっては正しいかもしれない。
彼女は彼女自身であれ彼女のペルソナであれ、
こう見られていたい、そうでなければ安心できないという不安が強いのだ。

誤解を受けていたって受けていなくたって
どちらにせよ100%正確に人を把握することはできない。
赤いリンゴだって日陰にいた部分は青かったりするのだ。
彼女だってペルソナを多用するからといって、
180°を境に表が赤で裏が青ときっちり線を引かれて色が変わっているわけでもない。
赤や青や白や黄のまだらで味が梨でも大丈夫なのだ。


それでは彼女の不安はどこから来るのだろう?
彼女はプラスチックのリンゴみたいなツルツルした原色青りんごを目指しているのだろうか。
相手が想像しうる”他の可能性”を彼女は失念しているのではなく、
自分の中にあるそのまだらに気づいていないだけかもしれない。

-彼女の話

執筆者:

関連記事

noimage

静けさと感情でいっぱいの場所

彼女はときどき美術館に行く。 行ったことのない遠くの美術館へも気になる展示があれば出かけていく。 美術館は大抵街の真ん中にあったりして、 駅の改札を抜け、雑踏を抜け、美術館の入り口を抜けると突然ロビー …

noimage

彼女が人を殺した朝

彼女はひどく青白い顔をして落ち着かない様子で言った。 「人を殺した」 僕は何をバカなことを、と一蹴しかけたのだが、 彼女のあまりにおびえた様子に少し動揺してしまった。 とにかく 彼女は人を殺したと言っ …

noimage

彼女の城

彼女は家をとてもとても愛する。 仕事に行っても友達と会っても、出来るだけ早くこの場所に戻りたいといつも願っている。 ロフト付き1Kが彼女の縄張り、彼女の城。   彼女は最近DIYにハマってい …

noimage

彼女の家計簿

彼女は長いこと家計簿をつけている。エクセルで自分仕様に作成した。色んなソフトやアプリを使っても細かなことまで気になる彼女だ。結局は自分で好きなように作ってしまうのが良い。 彼女の家計簿は終活にも見える …

3月9日

3月9日

今日は3月9日だ。 3月9日と言えばレミオロメンだ。 最近では卒業ソングの定番らしい。 彼女は卒業式に特になんの思い入れも思い出もないが、 高校の卒業式だけは死ぬほどうれしかったのを覚えている。 10 …

noimage

2020/03/17

意味

noimage

2020/01/31

メロディの輪郭

noimage

2020/01/29

真くろの向こう

記事内の彼女の絵や写真。
2020年10月
« 3月    
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  
This error message is only visible to WordPress admins

Error: No connected account.

Please go to the Instagram Feed settings page to connect an account.

にほんブログ村 メンタルヘルスブログ HSPへにほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へにほんブログ村 美術ブログへ