彼女の話

2001.9.11のあの夜

投稿日:2017年9月11日 更新日:

あの9.11から16年も経った。
彼女はあの夜のことを16回も思い出しているということだ。


その頃彼女はMD/CDラジカセを愛用していた。
使うのはもっぱらMDやCDでラジオの電源を入れることはほとんどなかった。
あの夜を除いて。


あの時彼女はふと目を覚ました。
真夜中だ、と思った。
いつもは途中で目を覚ますことなどあまりないのに、どうしてだろうと不思議に思いながら
無意識に彼女はラジオのスイッチに手を伸ばし電源を入れた。
「?」
ラジオのDJは何事かについて話しながらケタケタと笑っていた。
なぜだかやたらと冴えた頭が気になった。


自分でもよく分からないままとりあえず用を足し、
ベッドに戻ると、そばのプレーヤーからけたたましいアナウンスが突如として破裂した。
彼女は心底驚いた。
聞こえてきたのはニューヨーク、飛行機、ピンとこないビルの名前。
彼女の想像力が脳内を駆けずり回ってラジオの言わんとしていることをまとめようとした。


数十秒たった時だったか、しばらくそれを聞いていたのか分からなかったが、
彼女は突然猛烈な眠気に襲われた。
ラジオドラマの1シーンかな・・・と薄れていく意識の中で思った。


あくる朝テレビを観て彼女は絶句した。
ラジオドラマではなかったのだ。
彼女は飛行機がツインタワーに突っ込む直前に目を覚ましたことにぞっとした。
自分がラジオをつけた瞬間にあった様々な命がベッドに戻った時にはなかったのだ。
そしてなんの根拠もなく彼女は確信した。
形は違ったとしても、あの時間あの瞬間、自分と同じ体験をした人間が世界にいる。
それもひとりやふたりではない。


それから数日彼女はかなり不安定だった。
テレビもみないようにした。
苦しくて何もみたくなかった。



あれから何年も経って彼女はニューヨークへ行く機会に恵まれた。
当時はあの夜のあの場所へ行くのを少しためらっていた。
それでも2か月弱の滞在は9.11を悼むメモリアルプレイスへ足を向けるには十分な期間だった。
バリケードの向こうに残された瓦礫をみて涙することもなく彼女はただ
「ああ」と吐き出した。


僕は少し気になって実際に飛行機がツインタワーに突っ込んだ日本時間を調べたが、
それは午後9時45分ごろだった。
彼女の言うように真夜中ではない。
考えてみると当時の彼女はほとんど学校にも行っておらず生活はかなり乱れていた。


僕はそれとなく彼女に実際の時間を伝えたことがあるのだが、
彼女は少し考えるように遠くをみて
いや、あれは闇だけの真夜中だった、と応えた。

 

 

2001.9.11のあの夜

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