彼女の話

ドキュメンタリー

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彼女はドキュメンタリーが好きだ。
古代エジプトの話からロデオ乗りの人生や人工知能にアザラシの話まで。
なんでもみる。
それでも特に好きなのはやっぱり
創られるなにか、創り出すだれか、その周辺、のお話。




作家やファッションデザイナーや編集者や歌い手。
写真家やダンサーや名もない画家、終の棲家を探す老夫婦。
食い入るようにみている。
食事をしながら約2時間を見終えたとき、皿はほとんど手つかずで
握られた箸は食べ始めた位置にいまだスタンバイしている。

口を開けたままエンドロールの終りまで。




あのパワーに彼女は完全にやられてしまうのだ。
感受性が強く、刺激を受けやすく、場の雰囲気を感じやすい彼女。
真実を追っているドキュメンタリー。
そんな彼女は人より何倍もの臨場感でもってその世界に入り込めるに違いない。
彼女はその時間もはや映像の前にはいない。
もっとなにか、
その撮影現場の片隅であっけにとられながら息をのんで、それでもその空気のそのパワーのすべてを吸い込もうと手を握りしめて必死に立っている。




何かを創りだす、何かを希求する人々の熱力。
そこまでの足どり、今、これから。
自分。




現実に戻ってきた彼女は
箸を握りしめたまましばらく茫然として遠くをみている。
自分がどこかとんでもなく場違いなところにいるような感覚が覆いかぶさる。
どっちが場違い。




人間は自分が見たいものしかみていない。
脳がそうさせている。
生き抜くためにそうさせている。
だから違う世界の違う人間をみるとはっとする。
あなたが目の前に見ているものがすべてか。
本当に本当に本当に他に何もないのか。




そこに帰ろうとする。
そして彼女はドキュメンタリーをみる。

-彼女の話

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