彼女の話

表面下の世界

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「表面の世界でも生きていける。
そしてそれはそんなに悪くない。」


自分は一体何を表現すればいいのだろう。
文字を綴れば、黒鉛を重ねれば、世界をつなげれば、
それらを続けて行けばどこかに直角が訪れるのだろうか。


彼女は胃腸炎からの、ひどい脱水症状から抜け出すまで約10日間酒を一切飲めなかった。
酒が抜けきった彼女というのは、なんというか、まあ、ふつーの人、、、だ。

掃除をしたり、ふとんを干したり、
食事をしたり、ジグソーパズルを仕上げたり、
歩いて買い物に出かけたり、植物に水をやったり、

まあ、そんなふつーのことをしている。
ひどく、健康的。


彼女は、それを「表面の世界で生きている」という。

とてもハッキリしている。
意識も、景色も、人々も、望みも、世界も、身体も。

ただ一番大事なものだけが、表面下にある、というだけ。


彼女はこれが「みんな」の世界なのだ、と知っている。
不安や心配や悲しみや孤独を膝の上に置いて生きている。
そしてそれはけっして悪い世界じゃない。
そこにも自由はある。
両手が使える、という自由が。



彼女は胃腸炎にならずとも時々こうやって
深海魚が海面に目玉を出すように、
エイリアンが人間のフリをして社会を歩くように、
ゆっくり丁寧に生活してみる。
そしてしばらくしてカエルみたいに
一瞬天を反り返り、思い立ったように自らまた潜っていくのだ。


表面下の世界、は彼女にとってもう切り離せないだろう。
見ないようにして、無視して生きていく、ということはできない。
それは見えなくとも確かにそこに”ある”からだ。
彼女のスケッチブックのすべてを否定はできないのである。

あれほどに描いている拘泥まみれの点や線。
この表面の世界にうまいこと走査させる。
そしてひっぱり揚げる。


大事なことは彼女がこの二つの世界を認識した、ということなのだ。



表面下の世界

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