彼女の話

彼女が死ぬとき

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彼女は願っている。

自分が死ぬとき

それは誰かが生き延びるとき。


彼女は死をとても恐れている。
死ぬときのことを思うと怖くて怖くてたまらない。
死ななければならないのに、どうして生まれてきてしまったのだろうとよく考えている。

しかし生まれたからには死ななければならないのだ。
だれも逃れることはできない。
彼女は死ななければならない。


ただし彼女には不確実な確信がある。
自分は誰かの身代わりになって死ぬだろう。



彼女は想像する。

彼女はバスを待っている。
幼児が向こうから家族と笑いながら近づいてくる。
大きな通りだ。
縁石にたまった、たくさんのきれいな落ち葉に惹かれて幼児は車道へ近づいていく。
母親も父親も幼児の兄妹も、まだ木にひっついて離れない紅葉に見とれて気づかない。

彼女は幼児を眺めながら自分のようだと口角をあげる。
みんなが見ていないものを追ってしまう。
気になる。惹かれる。欲する。触れたい。
周りが見えない。

彼女は心の中で幼児に話しかける。
上を向いてもきれいだけど、下に落ちてるものもすごくきれいだよね。

ふいにバスが角を曲がってくる。
幼児の背後に巨大な鉄の塊が現れる。


「あ」


幼児にかけよる。
時間が止まる。
彼女は赤や黄色に染まった落ち葉と一緒に、すくい上げるように幼児を抱く。


離さない。


バスを背で受け止める。


ぜったいに、離さない。


赤い落ち葉が目の前に広がる。
やがて静かにそして徐々に日が暮れる。


これでいい。
これがいい。
こうやって死にたい。
こわくない。


彼女は願っている。

自分が死ぬとき

それは誰かが生き延びるとき。



彼女が死ぬとき

-彼女の話

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