彼女の話

ある朝

投稿日:

彼女はもう何年も飲まない日の方が少ない毎日だった。
飲みすぎることも時にはあったが、ほとんどは彼女の日々のささやかな楽しみであった。



ある朝彼女はいつものように目を醒まし、
いつものように布団から抜け出してカーテンを開けた。
やわらかな明るい日差しの朝だった。

半分ぼんやりとした意識で半分ほど残った白ワインのボトルが目に入った。
前の晩に飲んで、冷蔵庫に入れ忘れたものだった。


しばらく(、と思ったが実際はそう大して長い時間ではなかったかもしれない)
置き去りになったボトルを眺めたあと、彼女はそれを手に取って
固くしめられていたスクリューキャップを回し外した。

ふ・・・っ。


ボトルの中にこもっていた何かが音をたてたような気がした。


それから彼女は何の気なしに中身を排水溝に流し入れた。
昏い昏いどこまでも続きそうな黒い管の中に
こぷこぷこぷこぷ、と小気味よい音を鳴らしながらその金色の液体は姿を消していった。

そしていつも通り水をいれて中をそそぎ、乾燥させるためにひっくり返し立てかけた。

空になり逆さまになって傾いているボトルをまたしばらく見ていた。
まだ眠たいような気がした。



この日から彼女は全く酒を飲まなくなった。



-彼女の話

執筆者:

関連記事

花がら

アンビバレンス2 ー花がら

HSPはとかく外界からの刺激に対する敏感さを挙げられることが多いが、 自分の内界からの刺激にもそれは同じである。 自分が作り上げた妄想世界を自分自身で衝撃的に拒否してしまったあとも、 彼女が完全にその …

恋判定

判定

その人について考えが止まらない間、他のことが完全に飛んでしまう。 そしてそれは彼女が彼女であるという自信を喪失させ、 自分が自分ではなく、誰かに乗っ取られてしまったかのような不安が押し寄せてくる。 そ …

白糸

白糸

ふと気付くと彼女の左手首に新しい傷があった。 熱したフライパンの淵があたり火傷したそうだ。 その火傷は細く長く茶色くなっていて、 今となっては白糸のようになった他の無数の傷跡たちを 否応なしに目立たせ …

noimage

認められるということ

認める、というのは人が成す行為だ。 彼女は認められたいと思っている。 彼女は”人”が彼女を『認める』ことを望んでいるということだ。 彼女は「たぶん絵を認めてほしい」と思っている。 絵はただの絵だ。 彼 …

noimage

3月11日-ある春の日

彼女はしみだすのを眺めているのが好きである。 紅茶や緑茶の葉っぱや、フレーバーティのパックから 無色透明のばっとした熱さの水の中に 無秩序に延々としみだす色素を見ているのが好きなのである。 それは、そ …

記事内の彼女の絵や写真。
2019年5月
« 1月    
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ HSPへにほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へにほんブログ村 美術ブログへ