彼女の話

いちねんせいのかのじょ3

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小学校に入学してからというもの、
一年生にお決まりの黄色い帽子を彼女はいつも引き出しの中にしまっていた。
おかげで彼女は毎日毎日毎日黄色い帽子をかぶり忘れ、
結局数回しか被らず、きれいなままでその帽子は役目を終えた。


入学式からしばらくして教室に戻った彼女は給食当番になった。
ボウル係だった。
サラダとか和え物とか、冷めていても大丈夫な副菜をいれるアレだ。
ボウルとボールの違いなんてやっといくつか漢字を覚えただけの小学一年生には分からないのである。
周りの子供たちは突如教室に再来した彼女をボール係だとからかった。
彼女自身もボウルが分かっていないので、
なんだか分からないけれど、自分はおかしな存在らしいと位置付けた。
給食の時間はあまり楽しいものではなくなった。


体育の時間や運動会の練習などは地獄だった。
彼女は小さかったので、いつも列の一番前にいた。
そしてそこは前にいる教師たちからも後ろに並ぶ生徒からも「ジロジロみられることになる」
格好の立ち位置だった。

こと運動会の練習に関しては、ものすごい人数に近所中に響く大音量の指示の声や音楽。
後半になると脳が酸欠した彼女はあくびばかり止まらず、ひどく眠たくなった。


教室は全然楽しくなかったけれど、
真面目に授業に耳を傾け、宿題も絶対に忘れなかった。
とりわけ国語の授業は好きだった。
班になってグループワークを行うような作業は参加したくなくて、
ときどき保健室に戻ったり、次の日具合が悪くなったりした。


そうでなくても彼女は教室に行くようになってからというもの、
なんだか分からないけれど、突然どうしても学校に行きたくなくなる日があった。
そしてそういう時は決まって都合よく熱を出したり元気がなくなったりした。

冬の寒い日、彼女は吐き気が収まらずに遅刻して登校した。
教室の後ろのドアから入って、一番右の前から3番目。
それがその時の彼女の席だった。
彼女は黄土色のダッフルコートを着ていた。
やたらと着ぶくれていたが、授業中にも関わらずみんながあまりに見るので
立って脱ぐのが嫌で、目立たないように早くみんなと同じように座りたくて、
彼女はダルマみたいな恰好のままただランドセルだけ置いて着席した。
それ以後から現在まで彼女は一度もダッフルコートを着ていない。


吐き気がするというと、当時の担任教師は彼女の喉に自分の指をつっこむという荒療治をした。
(しかも昼休み、他の子どもたちもみている、教室の前に並ぶ水道で。)
確かに本当に吐きたいのであれば、それで吐けるだろう。
でも何も出てこなかった。

今ならわかることもある。
吐きたかったものは胃の中のものではない。
それは心臓の中にあるものかもしれないし、頭の中にあるものかもしれない。
未だにそれが何なのかもわからないけれど、
喉に指を突っ込んで出てくるようなものではないことは確かだ。

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