彼女の話

いちねんせいのかのじょ2

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彼女はそもそも学校を思い出すのも苦手だ。
小学校も中学校も高校も大嫌いだった。


小学校に入学してから数ヶ月間、彼女は教室へ行けなかった。
いつもお腹を痛がって保健室で過ごしていた。
仮病だと言われたりもしたが、それでも行かなかった。
今では仮病だったのか本当に痛かったのか自分でも分からない。


あの日、小学校入学のあの日。
みんなが同じ机の前に同じように腰かけ、全員が同じ方向に顔を向け、
同じ場所に全員が真新しいランドセルを置いている。
(当時はピンクとネイビーのランドセルの子がクラスに2、3人いた程度で、
圧倒的に教室は赤と黒とそれから眩しいほどの黄色の帽子で埋め尽くされていた。)

一番後ろの席からその光景を目にした小さな彼女はその「異様さ」に圧倒された。
こわくて動揺し、次の日から教室に足を踏み入れられなくなった。
いつも吐き気がして気持ち悪がった。


すべてが嫌だった。
休み時間に怯えた。
トイレは保健室を抜け出して、わざと授業があっている時に行くようにした。
小学校の休み時間の生徒の多さとあの騒々しさを思い出してみてほしい。
彼女はあんな中をくぐり抜けてトイレに辿り着ける気がしなかった。

そうかと言って、授業中も彼女はずっと警戒していた。
当時彼女は学校という場所や建物を巨大な怪物のように思っていて、
授業中この怪物は眠っているか、騒ぎ出したいのを必死で堪えているだけだから、
それが途切れたら授業中だろうと何だろうと暴れ出すときには暴れ出すのだと信じていた。
教室から時折聴こえてくる生徒たちの大きな声や音楽はその予兆だと思っていた。


給食は好きだったが、困ったのは
給食や掃除の時間に流れてくるあの放送委員たちの元気な声や
やたらと迫力とやる気を出させよう出させようとガンガンに攻めてくる様々な行進曲なんかが
彼女にとっては「もう音が目にしみて涙が出そうだった」のである。
(ちなみに掃除の時間はヨハン・シュトラウス1世のラデツキー行進曲だった。)


そんな彼女が一体いつからどんな風に教室に入れるようになったのか分からない。
おそらく彼女が好きそうな給食の時間とか工作の時間とかから徐々に教室に入り、
慣らしていったのではないかと彼女は考えている。
(彼女は慣れない人と食事はあまり進まないから、
給食作戦は特に幼い彼女には有効でなかったかもしれないが、
創作を一度始めると没頭する彼女のことなので、
小さい彼女にも工作作戦が効いたのではないかと思う。)


実際には教室に入れるようになったあともしばらくの間彼女は苦しむことになる。
まだ自分が巨大な怪物の懐中にいると信じ込んで身を震わせていたことは
なかなか変わらなかったからだ。





(今の彼女はこの時の指揮者・小澤征爾の踊ってるみたいな動きと
観客を巻き込んで一緒に楽しむところと、
最後に「うんぱー」と投げキッスするのが大変気に入って何回もみている。)

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