彼女の話

いちねんせいのかのじょ1

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ある晴れた朝、彼女はぼうっと城のベランダに腰かけて外をみていた。


ふと赤い生き物が視界の隅に入ってきて目を向けると、
それはランドセルを背負った小さな女の子だった。
まだ春休みのはずなのに、今日は登校日なのだろうかとぼんやり考えていると、
女の子の数メートル後ろをマキシスカートをはいた母親らしき人が歩いているのが見えた。

おそらくこの4月から新一年生として入学するこの女の子が
きちんとひとりで通学路を歩き、小学校まで辿り着けるか挑戦しているのだろう。


彼女はふたりの姿に違和感を覚えた。
女の子が頑なだった。
ただ下を向いて黙々と歩いていた。
前を見ていないのではないかとも思ったし、
逆に一度も後ろの母親を振り返ることもなかった。

彼女は近所でたくさん小学生たちに会うが、
低学年になるほど彼らは、路上で見つけるすべてが新鮮だとでもいうように
落ち着きなくフラフラ歩いたり、
しょっちゅう立ち止まっては何事かをまじまじと見つめたり触ったりしているものだ。
彼女はそんな彼らの姿を面白く眺めて一体いつになったら家に辿り着くのだろうと笑う。


それなのにこの女の子には道の端にこの子のためだけのラインがひいてあり、
女の子はそのラインだけを信じてひたすらに歩いているという風だった。
他のものは何も入ってこない、とでも言うように。


母親の目が厳しいのだろうかと思った。
母親は黒っぽいマキシスカートに白い短めのパーカー、スニーカーを履いていた。
パーカーのポケットに手を突っ込むでもなく、
娘との距離を一定に保ちながら春の風に乗るようにふわりふわりと歩いていた。
彼女はこの母親から不快なものは感じなかった。
むしろその日の暖かな風と同じような娘へのふんわりとした顧慮さえ浮かんだ。


しばらくして女の子たちは小学校から引き返してきたらしく、
今度は帰宅路をたどって戻ってきた。
ふたりの様子は先ほどと何も変わらなかった。
小学校に辿り着いた時もなんの会話も交わさなかったのではないだろうかと思ってしまうほど同じだった。


彼女は今でも視線を外すことなく歩く女の子をみて、
ふと思いついた。
ひとつはこの子が他の人たちにはない個性や何かを持っている可能性。
それから自分と同じ気質をもっている可能性。


もしそうであれば、と考えて彼女は女の子を包み込んでいるはずの春のうららかな陽気とやさしい風が
急速に一瞬にして雷と強風を伴った黒い嵐に変わるのを感じた。
胸の奥がキリキリ痛み出す。
女の子はそれらすべてを遮断させなければ進んでいけないのだ。

彼女もまたこの子と同じようにランドセルが歩いていると言われるほどちいさな女の子だった。
その時のちいさな自分の影がこの女の子に投影されて鈍く重なるのが見えた。


角に差し掛かって、親子は曲がり見えなくなった。
女の子が姿を消した瞬間、投射されたちいさな彼女の影だけが角の手前で女の子から離れて置いて行かれた。
女の子につづく母親は影となった一年生の彼女に気付かず、
すうっと幽霊をすり抜けるように一瞬重なって通り過ぎて行った。


一年生の彼女の影は下を向いたまま今も動かないでいる。



いちねんせいのかのじょ

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