彼女の話

雪の夜

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夜道を歩く彼女の前にひとつの雪の塊りが降りてきた。
降ってきたのはたったひとつで、見上げてもそれに続くものはないかに見えた。
たったひとつで降りてきて、寂しかったろうなと思ったものの
宙を舞う小さなゴミだったのだろうかとおかしくなった。


食事をすませ一息ついた彼女はふと外がザワついているのに気が付いた。
外に誰かいるかのような違和感を覚えて恐る恐るカーテンを開けた。
するとそこにいたのは無数の雪だった。
雪降る夜独特の、シンとした無音の声で満ちた世界が
いつの間にか彼女の城の周りで踊っていた。


彼女はたったひとつで降りてきた雪の結晶を思った。
ゴミでもなければひとりでもなかった。

彼女が眺めている内にも雪の結晶は我も我もと言わんばかりに、
次から次へと降り立ち、ふんわりと仲間の上にかぶさった。

彼女は自分のスケッチブックみたいだなと思った。
白地に黒い点々を打つように、闇の世界に白い結晶が満ちていく。
彼女が余すことなく点や線で塗りつぶそうとするように、
高級車も、その上に張られた電線も、その下で照らされていた石ころにも
同じに降り注いで同じに白い塊に変えていく。
悪いことも良いことも全ては同じになっていく。


彼女はふっと視線をずらした先に蜘蛛の巣があったのを思い出した。
街灯に張られていたその網は絶妙な角度を保って
雪を滑落させその半分はまだ姿をみせていた。
解けた雪で濡らされたシルクのような糸は街灯の光に照らされて
白い世界の中で風に吹かれてキラキラしていた。

彼女はこの巣の主を思った。
このまま雪が降り続けばその重さを支え切れずに
ある時プッツンと切れてしまうかもしれない。
明日の朝にはもうないかもしれない。
彼女は願った。
どうか耐えてほしい。


無辜に見えるこの白い世界も
やっと出来上がったかと思えば消えて行く水たまりと同じ。
虚像が消えてしまっても、創った何かが変わらずにそこでフラフラ揺れている。
明日の朝目覚めても、そうであってほしい。
彼女は白が一層ざわめく夜の闇を見ながらどこかに姿を隠すこの巣の主を思った。



雪の夜

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