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スキン・ピッキング/Living

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彼女のスキン・ピッキングが始まったのは幼少期である。
彼女は保育園のお昼寝で使う布団の端から端まで血のドットを並べた。
血は皮をむしった彼女の唇からあふれ出たものだった。
こんなことをしたらおかしく思われるだろうな、叱られるかもしれないな。
小さな彼女はそう考えながら枕をどけて唇を布団に押し当てた。
よく覚えていないようだが、記憶は3~5歳頃のものと思われる。
木綿のシーツに吸わせても吸わせても唇からは延々血が止まらなかった。

彼女は
「こんなことをしたら大人はおかしく思うだろうな、叱られるかもしれないな」と
考えていたのだ。
その小さな胸の内で。


彼女の唇の皮をむしる癖は大人になるまで続いたが、
化粧をして社会に出るようになってからはほとんどなくなった。
その代わり左手親指にはいつも血がにじんだ絆創膏が巻かれている。


指の爪や皮を剥ぐとき、彼女は無心そのものかというとそうでもないようだ。
すごく痛い。
肉が見えるほど厚く剥いでしまったときは
思い切って一気にむしり取るのを躊躇するほど腕全体に激痛が走る。
それでもやらなければと思う。
めくれた皮膚のすべてを全部全部取り除かなければ。
その観念と痛みの迫間で彼女は自分のおかしさに気付く。
その間にもどくどくどくどく、と血は大きな丸みをもってあふれ出てくる。

息があがる。
もう幾度も経験したあの痛みを迎えるその瞬間。
はあはあはあ。

やらなくちゃ。
全部剥ぎ取ってきれいにしなくちゃ。
このボコボコになった皮膚をぜんぶ平らにしてしまうんだ。


終えたときはあまりの痛みに手が震え息を止めて声も出ない。


大きい皮も小さい皮もすべて剥ぎ取ってしまった親指は
しばらくの間血が止まらない。
数年前までは手当をしていなかった。
流れ続けるどす黒い液体をぼんやり眺めたまま眠ってしまうので
手はもちろんのことテーブルも服の袖も、
目が覚めたときには赤い膜が乾いてカピカピになっていた。
世の中のリストカットもスキン・ピッキングも
自傷はまともに手当されないことが多いが
最近の彼女は少なくとも傷口に何かを当てることはしているようだ。



スキン・ピッキングは皮膚むしり症、自傷性皮膚症、強迫性皮膚摘み取り症などと呼ばれる。
リストカットや抜毛、爪噛み、過食などなどと同じ自傷行為の一つと言われたりもする。

自傷は自殺行為とは違う。
自傷は必ずしも死のうと行われるわけではない。
行き場のなくなった毒たちの傍証の表象が自傷なのだ。
それは紛れもなく彼女たちが生きようとしている、という証でもある。
けっして自己顕示や弱さの表れだけで済ませられるものではない。


彼女の左手指はやたらと皮膚が厚くなっている。
血を流しては止血され、剥がされては再生した。
大丈夫、何も失くしてはいないのだ。



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