彼女の話

彼女と鉛筆

投稿日:2017年9月24日 更新日:

彼女は鉛筆がめちゃくちゃ好きだ。
それから鉛筆をカッターで削るのが更に好きだ。

彼女は鉛筆のあの柔らかさが好きだ。
いわゆるシャーペンは紙を傷つけながらかいている感があるのだという。
かいたあとに紙を見ているとそこに溝ができているらしい。
シャーペンを使って強い筆圧でかいた時に確かにその凸凹は紙の裏からよくわかる。
彼女も時と場合によってはシャーペンを使わないことはない。
傷をつけたいようなものをかきたいときには使うようだ。
(しかも彼女はファーバーカステルの結構いいやつを持っているのだが。)

その点、鉛筆は柔らかい。
紙にも柔らかく接し、自身も静かに削れていく。
50/50なのだ。
特にスケッチブックにその芯を滑らせたとき、
鉛筆の黒鉛がスケッチブックの紙の繊維に入り込み切れずに
描いたラインがボコボコと黒に染まり切らないのも大変気に入っている。
それを楽しむためだけにひたすらにスケッチブックに線を走らせるだけの時もある。

重ね塗りが一番楽しめるのも鉛筆だ。
シャーペンやボールペンでも濃淡や重ね塗りはできるのだが、
彼女にとってはここでも鉛筆ほど自由を感じるものはない。
自分の力加減次第で鉛筆は幾通りものグレーを生み出してくれる。
ちなみに色鉛筆の黒色は「わざとらしくて」使わない。
とにかく鉛筆は謙虚なのにダイナミックなのだという。


今はHBか6Bを使っている。
本当はもっといろんな種類を持っていたいと思っているのだが、
この2種類が気に入っている。

特にHBは削りやすいという点で相性が大変いいらしい。
あとは子供の頃から一番付き合いも長いから安心するし、ときどき義理も感じるし、
とにかく仲良しであるらしい。
6Bの色はとても好きだが、とても削りにくい。

彼女は鉛筆はカッターでしか削らない。
鉛筆削りでぐりんぐりん無闇に尖らせようとしている人を見ると
なんて乱暴なことを、と一人で勝手に傷ついてしまう。
以前自分の鉛筆が誰かに研がれてしまったのをみて、その人の親切心を理解しながらも
まるで自分の一部が
鉛筆削りのあの先が見えない真っ暗な穴にぐいぐい突っ込まれて研がれてしまったかのように
激しく落ち込んだことがあった。
以来他人の目に触れるところに自分の鉛筆は置かないことにした。

なぜ彼女がカッターでしか鉛筆を削らないのかというと、それは芯をできるだけ残すためだ。
彼女が細心の注意を払って削った直後の芯は、
ただそのまま周りの木材だけを溶かしましたとでも言うように
黒鉛の棒には傷一つ入っていない。
この点6Bはすごくすごく柔らかくて繊細だからかなり気を遣うのだという。
まるで豆腐か桃みたいにすぐにかよわく傷つくのだ。

鉛筆の芯はキリッとつるんとしていて柔らかく、
それを支える削られた軸木は武骨で、これもまた柔らかい。
しかも森みたいな土みたいないい匂いがしてあたたかい。

鉛筆は愛しい。
鉛筆みたいになれたらいい。
彼女は思いながら今日も静かに鉛筆を削る。

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