彼女の話

忘れていく彼女 -ことば

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前回のつづき




彼女はこうやって自分の記憶があまり正確でも信用できるものでもないようだと気づいたとき、
それまでよりも余計に自分がふわふわしたところにいる感覚が強くなってしまった。
小さいころから自分が放った言葉の意味に対応しない言葉が相手から返ってきてなんの話だか分からず戸惑う。
もしかしたら自分は言葉自体の意味も記憶違いしているのではないだろうか。
みんなの世界の言葉をみんなと同じに覚えなかった。
だから自分の言葉は正確に伝わらないし、相手の言っていることも分からないのではないか。
そう思い始めた。

成長とともに言葉を言語として理解するようにはなったが、
同時に、どうも伝わらないらしいという言葉も感覚的につかめるようになった。
みんなが話すように自分も話すようになった。
そしてだんだん本来の自分の言葉をどこかに置いてくる癖がついた。

でも置き場所にも限界がある。


彼女はいつも願っている。
すべて吐き出したい
自分のことばで話したい。
話したいことがたくさんあるはずなのに。
同じ言葉を話す人に、自分の言葉を理解してくれる人に。
会いたい会いたい会いたい会いたい。

そして彼女は知っている。
自分と同じ世界を生きる人たちが実はたくさんいる、ということに。
自分も彼らにとっての会いたい人かもしれないことに。

僕から見ているとそんな世界の彼女たちは
毎朝バスを待つ列で、職場のデスクで、映画館の座席で、すぐ隣同士にいるかもしれないのに、
みんなが彼女のようにひっそりと息をひそめ仮面をつけて外へ出てくるので、
結局はすぐそばにいながらお互いに気付けない、というそんなもどかしさがある。
そしてそれはなんだかとても切ない。



忘れていく彼女―ことば

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