彼女の話

忘れていく彼女

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彼女はあまり記憶力がよくない。
まるでわざとそうしているようかのように、これまでのことをどんどん忘れて行ってしまう。


彼女は特にそういったハンディキャップや疾患があるわけではない。
なのでつい最近のことはまあそこそこ憶えているのである。
しかしそれが10日前、1ヶ月前、となると途端に憶えていないことが増える。

たとえば職場で関係者に宛てた年賀状に、自分が他愛のない一言を手書きで添えた内容。
相手Bから年明け取り急ぎのお礼のメールを受け取った時、
Bはどうも自分が書いたことに対してわざわざ返信してくれているようなのだが、まったくなんのことか分からない。


いつ、どこで、だれと、なにがあったか、がバラバラになっていることもよくある。


たとえばCさんに最後に会ったのはいつだっただろう、と考えて
ああそうだあの頃あそこでだった気がする、などと結論付けるのだが
それは全く別の人物、別の時、といったように記憶の結びつきも取り出し方もめちゃくちゃだったりする。

どうも確かな記憶に行きつくまでの手続きもないがしろにしてしまっているようで、
Cの話にしろ本来ならばその人と自分との接点や共通点などを手がかりに記憶をたどっていくものだが、
彼女は突然どこからかCに最後に会ったような雰囲気を”持ってきて”、
でもその材料としての雰囲気は他の誰かと会った時の記憶から作られた”イメージ”だったりして、
結局はその記憶も”作られた”ものになってしまうのである。
彼女は多くの記憶をそうやってその時ごとに変換して出力してしまっている、とでもいえばいいだろうか。

もちろん、こういった記憶のエラーは彼女に限って起こるものではないのだが、
彼女の場合はどうもそれが頻繁であるようで、しかもかなりの現実感をもっている。


彼女はごく若いころにこの妙な癖を自覚し、
そして成長と共になぜそんなことになってしまうのか、なんとなくその原因も分かってきたように感じている。

それはたぶん「脅かされることのないように、おぼえておく気がそもそもない」からだ、と。



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