彼女の話

彼女とモネ

投稿日:2016年12月7日 更新日:

彼女はモネに対して少し複雑な感情を抱いている。

 

美術館で著名な画家の絵や有名な作品を見ると彼女はいつも同じことを思う。

全部ニセモノかもな・・・

 

フランスから初来日した絵だの、初公開の作品だのとありがたがってみんなで神妙な面持ちで眺めているが

彼女はいつも自分はニセモノをみているかもしれないなと思いながら楽しんでいる。

 

彼女にそう思わせる理由の一つは、

そういった有名な美術展では必ずと言っていいほど大きな広告が打たれ、チラシが配られ、テレビでCMが流され、

必然的に実際に見に行くまでにその”レアな絵”をたくさん目にすることになるためでもあるようだ。

いざその絵の実物の前に立った時、彼女はよく

「ああ、あのチラシとおなじ方ですね、どうもどうも」

と心の中できさくに話しかけてしまう。

これには「チラシに載っていた作品ですね」という意味も

純粋に「チラシとまったくおなじですね」という意味も込められていて

要するに彼女には本物とニセモノの違いが分からないのである。

またはあまりにも見慣れてしまってありがたみがない、飽きた、ともいえるかもしれないが、

彼女は単純にぺらぺらてかてかの2Dか、がじゃがじゃの固まった油の3Dかの違いかしかわからない、という。

彼女は自分の感性がかなり未熟なのだろうと思って済ませているが、

むしろポスターでみなかったはじめて見る作品の方が彼女は感情移入しやすいようで、

大抵はそういった新鮮な誰も注目していないようなひっそりとした作品に感動させられることが多い。

好みの問題、とも思っている。

(それもニセモノに心寄せているかもしれないが、それはそれでいい、と思っている。)

 

そんな中で彼女は唯一はじめて「これはホンモノだ」と感じた作品に今年会った。

その姿をみたときに彼女はとても驚いた。

それはそんなに大きいとは言えない絵で、多くの人の波の向こう側にいたのだが、

その圧倒的な存在に彼女は少しの間近づくのをためらった。

(実際にはそんなにすぐには近づけない人の多さだったのだが。)

 

近くでみることもできたのだが、彼女はその姿の全体がみえるところからいつまでも眺めた。

派手な絵ではない。薄い。全体的にうすいのだ。

とてもふんわりぼんやりしている。

そんなあいまいな画家が”みた”ものの中にいる。

「彼は”これ”を”みた”のだ」

 

それはモネの『印象、日の出』だった。

 

今年はモネ展が開催された。

おなじみたくさんの『水蓮』も来ていたが、今回の目玉は日本に来るのは20数年ぶりになるという『印象、日の出』だった。

なぜか日本人、いや多くのアジア人が異常に印象派を好む理由は知らないが、

なにはともあれこの印象派の語源ともなった作品に会っておこうではないかと彼女も出かけた。

チラシやポスターで、以前にも画集や雑誌で何度も見た絵だった。

 

しばらく(どれくらいその絵を眺めていたかわからないが)して彼女は

「そうかぁ、あなたはホンモノでしたかぁ」と心のなかで苦笑して、それでもそうやっぱり話しかけた。

遠くからだったのできこえたかはわからないけど、「忙しそうだったのでそれ以上は遠慮した」そうだ。

 

突如として”ホンモノ”に出会い、この日彼女はとてもどきどきした。

そして自分の経験値と感性の未熟さを改めて恥じた。

今のところ彼女の中でホンモノとは「なんだかわからないけど目の離せないとてもびっくりするもの」、となっている。

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