彼女の話

彼女の一番古い記憶

投稿日:

-覚えている限りの一番古い記憶がわかるか。

「わかる」

 

-何歳頃だったと思うか。

「3歳から5歳…たぶん、3歳か4歳だと思う。」

 

-思い出した記憶には色がついているか。

「これって色が思いつかないから、ないんじゃないかな。」

 

-それは夢や映画みたいな物語として思い出したか。

「物語…ではない。一場面だけ。」

 

-自分がいるか。

「いる。見える。」

 

-どこからみている?

「少し前の方…右斜め上から見下ろしている。」

 

-顔が見えるか。

「見えない。抱いたあかちゃんをみているからうつむいている。」

 

-感覚や感情があるか。

「ある。腕がしびれてる。ミルクをあげたりもした。きついから誰か代わってくれないかなと思ってたと思うし、暗かった。誰か大人がもう一人かときどき二人いたと思うけど、声をかけられたような気もするし、一瞥されただけのような気もする。女のひとだった。なにか食べ物のにおいがしていたような気もする。保育園の先生たちの部屋かもしれない。白い円筒形の石油ストーブ、上に薬缶とかおけるストーブがあって、寒くはなかった。保育園だったことは確実だ。ほかの子たちはもういなかった。みんな帰ってた。暗かったのに、なんで私だけいたのかな。部屋が暗かっただけかもしれない。最初はかわいいと思ったと思うけど、このあかちゃんをいつまで抱えてるんだろうと不安になった。制服のコートは着てなくて白い服を着てた。あかちゃんも白い服だったような。あかちゃん重かったな。」

 



(彼女は昔からわりと頻繁にこの記憶を思い出しており、
驚くほどスラスラと語ることができた。)

-彼女の話

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

関連記事

雪の夜

雪の夜

夜道を歩く彼女の前にひとつの雪の塊りが降りてきた。 降ってきたのはたったひとつで、見上げてもそれに続くものはないかに見えた。 たったひとつで降りてきて、寂しかったろうなと思ったものの 宙を舞う小さなゴ …

ワガママ

”この人は結局ワガママなんだよ、自分が一番かわいくて一番大事なんだ”

彼女は人に好かれるのも苦手だ。 以前”この人は結局ワガママなんだよ、自分が一番かわいくて一番大事なんだ”と言われ、 彼女は全くもってその通りだと笑ってしまった。 なので彼女はあまり人に予定を合わせたり …

たそがれ

たそがれ

彼女が一日の中で一番すきな時間はたそがれ時だ。 早朝の「キリっとパリッとした空気」も好きだが(彼女は早起きが苦手だし)、 その日一日あつく熱された世界を静かに穏やかに落ち着かせようとするあの時間には変 …

noimage

おでこのこり

最近とても気になっていることがある。 それは彼女のおでこのコリだ。 彼女は考えているときや本を読んでいるとき、人ごみにもまれたときなど いつの間にか眉間に力が入ってしまう。 しわができない代わりにずっ …

noimage

どんよりからの突破口

彼女は人に何かしてもらうのが苦手だ。 何かをもらう、とか手伝ってもらう、とか。 それはよくあるように人の手を煩わせるのは申し訳ないと思うから、というわけではなく、 できればそういったことはしてほしくな …

記事内の彼女の絵や写真。
2019年8月
« 7月    
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ HSPへにほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へにほんブログ村 美術ブログへ