彼女の話

失い

投稿日:2018年3月28日 更新日:

彼女はテレビをみない。
ニュースを見ていても、次々と流れてくる憂鬱な事件の連続に
だんだん生気を奪われていくような心持がしてくる。
汚職、強盗、放火、飲酒運転、詐欺、暴行・・・
もしかしたらニュースは無数の同じ事件を
毎日リピートしているのではないのだろうかと思いたくなる。



そしてまたいじめでひとつの命が消えた。


小学生の女の子。
ニュースを見たとき彼女は喉の奥が詰まって重くなり、
肺をわしづかみにされたような苦しさに顔を歪ませた。

ひとりでどれだけ泣いたのだろう。

誰に助けを求めても救われなかった。
まだ小さく柔らかいその手や爪を何度涙で濡らしただろうか。
もう理不尽でも怒りでも口惜しさでも悲しみでもない、
少女の体の内外からまとわりついたただ黒い絶望。

彼女はだんだん少女のことが頭から離れなくなってきた。
想像するだけで体がビクつく。
喉が熱い。



少女を死に追い込んだ同級生を思った。
小学生の女の子。
10代に入ったばかりで、これからの生その数十年間、ずっと何かを背負って生きていく。
齢を経るごとに、社会を知るごとに、人を知るごとに、
その重大さに押しつぶされながら生きていくのだろうか。



なにが悪かったのだろう。
この同級生か、その親か。
それならその親を育てた親も悪いとでもいうのだろうか。
それともこれまでの歴史か、制度か、社会か、近代化か、巡りあわせか。

自分だってもし少女の側にいたとしても救えたかどうかわからない。


一体どこで何を踏みはずして私たちはこの子を失ったのだろう。



彼女はそこまで考えて頭がひどく混乱しだしたのに気付いた。
喉が詰まっているせいで深呼吸が上手くできない。
それは少女の嗚咽をこらえた喉と肺の痛みのような気がした。



-彼女の話

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