彼女の話

知覚過敏

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彼女は再び知覚過敏に悩まされている。

知覚過敏というのは、何らかの原因で歯の表面のエナメル質が剥がれ落ち
象牙質がむき出しになることで、神経に刺激が伝わりやすくなり痛みとなってしまう症状だ。
予防歯科に通う彼女の担当歯科衛生士が見たところ、
彼女のエナメル質が剥がれたのもどうやらいつもの噛みしめによるらしい。
これもか・・・と彼女は小さくため息をついた。
ここ数年の彼女の明らかな体の不調は噛みしめが原因であることが多い。


このところの症状はかなりひどいようで、
痛みや違和感を感じないのはとうとう左上あたりだけになってしまった。
一番つらいのは右下で歯ブラシも当てられない。
素人目でみてもその辺りの歯茎の色は明らかに透けたようになっている。
一度剥がれて薄くなってしまったエナメル質はもう二度と戻らない。
彼女はこのもう二度と戻らない、というワードにひどく弱い。
何かにつけてこの言葉を聞くと果てしない喪失感に包まれてしまう。


天然のエナメル質を取り戻すことはできないが、
むき出しになってしまった象牙質をコーティングすることは可能らしい。
歯ブラシやフロスなどで歯をきれいにしたあと、
2cmほどシュミテクト・ホワイトニングを塗布し、
ごくごく少量の水を口に含んで洗口液の要領でうがいする。
もちろん天然のエナメル質のようにはいかないのだが、
これを続けている限りは症状はかなり改善される。
彼女もそれは実感済みでよくわかっている。

しかし運動などと同じで彼女もこれを毎晩続けるのが苦痛なのである。
通常の歯ブラシを使って磨き、矯正用の小さなブラシで細かい所を磨き、
フロスをすべての歯間にくぐらせ、うがいをしたあと、
さらに歯ブラシにシュミテクトを2cm押し出してしみる箇所にぬりぬり、
少量の水を含んで口腔中を泡だらけにしながら60秒ひたすらぶくぶく言わせやっと吐き出す。
この過程をまじめにやっていると10分などゆうに過ぎてしまう。
しかもそうやって苦労してコーティングしたからにはその後水も飲めないのである。

これを聞けばおろそかになってしまう彼女の気持ちも分かるだろう。
仕事で疲れて帰ってきて家のことやら何やらを済ませ、
ああ、もう寝たいという時にこんなこと優雅にやっていられない。


そして彼女は左頬の異様なハリにきづいた。
右下の歯を使えないばかりに左顎ばかりつかって咀嚼していたから
ひどいコリになっているのだ。
頭まで痛い。


思い悩み続ける頭といい、いつもガッカリを運んでくる顎といい、使えない歯茎といい、
どうしてもいつも頭部に問題が起こるのか、彼女は心底辟易している。

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