彼女の話

暖房便座と彼女の熱量

投稿日:

彼女はフローリングの床の上に文字通り転がっていた。

「真冬の立体駐車場のコンクリートの上に転がっているみたいだ」と呟いた。
「今日はすごく寒いね」

真夏ほどではないにしても外気温はまだ30度近くある。
風通しの悪い彼女の城はいつも空気がこもっていて、体感温度は外よりも2度以上高いはずだ。
それなのに確かに室内はなぜかひんやりしていた。

いや、それにしたって寒いわけではないはずだ。

少し窓を開けて風を入れたら?
外の空気の方が暖かいかもしれないし。
それから少し運動した方がいい。


「・・・・。
お手洗いに行きたいんだよね・・・」



行ったら?
ガマンすると良くないし。


「でも、冷たいんだよ、おしりがさ」


・・・。
ウォームレットをオンにしたらいいんじゃない。


「・・・・・・。
座っていない時のあの熱量がどこにいくのかと思うとつけられない・・・」


あの熱量・・・
おそらくは空気中に放出されっぱなしになっていて、
彼女の小さなトイレ空間をわずかながらも温めるのだろう。


彼女はトイレの暖房便座の熱量と自分の熱量とを混同していた。
健康な体を持ちながら動けず時間とお金を浪費する、
ただ床に転がっているだけの自分の体の表面からカゲロウみたいにユラユラ生ぬるい熱が立ち上って空気中に消えていく。
しかも暖房便座は小さな空間を温めるけれど、
自分のこのユラユラヌルヌルした熱はおよそ熱とも呼べない熱量しかなく
いくら転がってそれを発散させても依然として彼女の城は真冬の立体駐車場のコンクリートと同じであるのだ。


ということは今の自分は暖房便座以下の存在であるということか・・・
彼女はよっとこさ、と寝がえりを打って仰向けになり天井を見上げながら考えた。
それはそれでいいような気もするなぁ。
暖房便座は暖房便座でえらいわけだからなぁ。
所望すればいつだって誰かのおしりを温めているのだから。
自分も誰かの何かを温めてみたいもんだ・・・


彼女は冷え切った自分の手を天井にかざして少し眺めたあと、
よっこらしょう、と起きあがり正座して何事か考えていた。
そしてもう一度

「お手洗いに行きたいんだよね・・・」と神妙な顔で呟いた。

-彼女の話

執筆者:

関連記事

スペクトルの中の零れる虚しさ

スペクトルの中に零れる虚しさ

どうしてこうなってしまったんだろう。 彼女は後ろを振り返ると、 嬉しかったことや楽しかったことをよく思い出す。 それなのになぜだか彼女は生まれて来なくてもよかった、と思っているのだ。 正確には彼女がハ …

彼女が死ぬとき

彼女が死ぬとき

彼女は願っている。 自分が死ぬとき それは誰かが生き延びるとき。 彼女は死をとても恐れている。 死ぬときのことを思うと怖くて怖くてたまらない。 死ななければならないのに、どうして生まれてきてしまったの …

彼女と酒

彼女と酒

彼女は酒が好きだ。 飲み会は嫌いだが、ひとりで飲むのはとても好きだ。 昔は平日も仕事の後の楽しみに発泡酒を1本飲んでいたが、 知り合いにノンアルコールをすすめられて以来、平日はALL FREEで事足り …

noimage

彼女の頭の中のいちばん外側

彼女はいつも自分は結局一体なんなのだろう、と考える。 自分の行動を振り返る。 その時にそれは一般的な行動であったのか、 それとも自分の本来の性格によるものだったのか、 そして、それとも自分のその気質の …

noimage

燻る-くすぶる

彼女はある夜自分の中が激しく噴火したがっているのを感じた。 くやしい くやしいくやしいくやしい!! 怒りのような欲求不満のようなハラワタがとび出てきそうな そんな不快感。 そして熱。 食いしばった歯の …

優しい時間

2018/10/19

優しい時間

noimage

2018/09/18

アンビバレンス3

棚

2018/08/29

記事内の彼女の絵や写真。
2018年11月
« 10月    
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ HSPへにほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へにほんブログ村 美術ブログへ