彼女の話

歯っ欠けの彼女

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彼女の歯が砕けて欠けたらしい。
笑ってしまった。


幸い欠けた歯は前歯ではなく、それももともとしてあった詰め物が欠けたらしかった。
だから本物の歯が欠けたわけではないのだが、
彼女はついに恐れていたことが始まったのだとショックを受けた。
彼女には他にヒビが入っている本物の歯もある
今回は詰め物だったがこの次はホンモノが欠けるかもしれない。


詰め物詰め物と言ってはいるが、今回歯に穴が開いたのは事実なのである。
歯医者によると、咬みしめ癖がハンパないのでなるべくならセラミックを入れるよう勧められた。
ろくまんえん。
そこ5mmくらいの穴を埋めるのに6万かかるという。

というのも保険が適用されるプラスチックやいわゆる銀歯は
セラミックほどきれいには入らないし、
咬みしめ癖のある彼女には強度と耐久力もあるセラミックが理想的だという話なのだ。

彼女は「ろくまんえんかぁ」とぼんやり考えた。
彼女の口腔内には銀歯は1か所しかない。
歯医者もせっかくきれいなのだから銀歯もあまり薦めない、という。
彼女自身も銀歯はいやだな、と思った。
長い目で見れば6万円かけて今セラミックを入れておいた方がいいような気がしてきた。


と黙って考えていると、歯科医師は『どの点でお悩みですか?』と投げかけてきた。
その途端彼女はたった今までセラミックにしようかなと考えていたのに、
「6万円って高いですね」と呟いたのである。
彼女は自分でも少しびっくりした。
こういうことは時折あるのだが、
彼女は「歯科医師は『この人はきっと費用面で悩んでいるのだろう』と思っているだろうな。
だから決定的な一言を促すような質問をよこしたのだろうな」と即座に感じたのだ。
そして自分が直前まで考えていたことよりも先に、
この歯科医師が望んでいるだろう答えが口をついて出たのである。


結局彼女は保険内1400円ほどで済む白いプラスチックをはめ込んだ。
何もなければ2年くらいは大丈夫だろうと言われ彼女も納得してそうしたのだが、
自分の考えやら、それに反した言葉やら、この変わり身の早さといったら
自分でもなんだかおかしくなっちゃうなぁと苦笑する彼女であった。

それにしても彼女の咬みしめ癖は他の歯も砕くことになるのだろうか。
一体いくらかかるようになるのやら。

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