彼女の話

”変わる”ということは何かを”失くす”ということ。

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”変わる”ということは何か”失くす”ということだ。


ある人たちにとっては当然かもしれないその事実に彼女はようやく気付きかけている。


彼女は変わるということについてほとんど意識すらしていなかった。
ただなんとなくそれは自分の中のいくつかを殺してしまうことだと思っていた。
普段はぐちゃぐちゃに絡まった糸に紛れて見えないだけで
変わるということと自分の内面の死が直結している、と感覚していたのである。


”あの公園の桜、今年は特にきれいですね”とか言ったりする人がいる。
でもその桜は毎年同じにきれいだった。
何か落ち込んでいた時、嬉しかったとき、心が動いていたその時、
見上げた先にあった桜が心に連動して”今年特にきれいに”見えた。
変化があったのは桜でなくてその人なのだ。


あなたにも経験がないだろうか。

今、この夕日を美しいと思っている自分は明日も同じに美しいと思うのだろうか。
今、目の前にいるこの人は明日も変わらず自分の前にいるのだろうか。
今、こんなにも胸を震わせるこの曲が明日も色あせずに響くだろうか。


今、と同じことを思えないとしたら
それは自分が変わってしまったから。
そう思えていた自分がいなくなってしまったから。
失くしてしまったから。
彼女はそう思っていた。
いや、今も思ってはいるだろう。


変わるということと自分の内面の死が直結している、という彼女の感覚はたぶん間違っていない。
今日見た夕日を美しいと思える自分が殺される瞬間はあるだろう。
時代も体も環境も変節の時には何かが確実に失われる。

しかし一つの時代が終わったとき、すっかり止まってしまった”時間”があっただろうか。
細胞のいくつかが失われたとき、あなたの体まで消滅するだろうか。
誰かとの別れがあったとき、あなたという人まで消えてしまっただろうか。


”変わる”ということは何かを”失くす”ということ。
そして”失くす”ということは必ずしも”終わり”ということではない。

構築と破壊、営為と解体、存在と不在、再生と死・・・
これらはずっと僕らの内面で繰り返されている。
彼女は構築し、営為をつづけ、存在までさせて動けなくなった。


彼女が行わないこの”失くす”仕事を今彼女の無意識が必死で代行している。
夜な夜なあらゆる死を見せつけ、どうかそれに気づいてほしいと。
苦しいのだと。



”変わる”ということは何かを”失くす”ということ

-彼女の話

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