彼女の話

たくさんの話から

投稿日:2017年6月9日 更新日:

彼女の上司は大変いい人である。
色んな事を知っていて好奇心旺盛な人であり、腰が低く人脈が広い。
感性も鋭くよく気が利き、ユーモアに富み周りへの気遣いや配慮に溢れた人だ。
彼はおそらくHSPであるようで、どうもその気質については知らないようだ。
しかし彼女は何かの折、「それは俺らにしか分からない感覚だから、自信もって使った方がいい」
とふっと言われたことがある。
HSPについて知らずとも、彼女の存在が自分と何かが同じであると気づいているようだ。
さすがHSPといったところだろうか。

(彼女の話を聞いている限り、彼がHSPである可能性は限りなく高いが、
同じHSPで彼と彼女とこうも違うものかと僕は正直驚いている。
前述のとおり彼は彼女と比べるとかなり外向的で社交的だ。)


彼は彼女よりいくらか若いらしいのだが、自分でビジネスを展開している。
そこに行きつくまで彼はおそらく様々な経験と知識を得たのだろうが、
彼女は彼と話しているとその話題の豊富さと彼の感性が時々怖くなってくる。

彼女は一度にたくさんのことは受け入れられない。
他人のものでも自分のものでも音でも感情でも色でも風でも、
とにかくあまりに多くはだめなのである。

この上司はある程度自分はこう思う、という謙虚ながら確固たる意思を持っている人だ。
彼女はその強さに感心する一方で、
話題が移る度にそのあまりに玉虫色に変化する感性や思考に途中から頭がグラつくのを感じ始める。
ペルソナのおかげで表向きは楽しく会話するのだが、
漠然とした不安がその会話の所産だか残渣だかとなってふわっと暗闇に浮かび上がるのだという。
そして「この人に今後どんな言葉なら発していいのだろう」と思うのである。


要するに彼女はこの人にこんなことをいったらどんなことを思うのだろう、と
心配しているのかもしれない。
確かに、彼が彼女と同じ気質を持っているのだとしたら、
彼も彼女と同じように様々に思いを巡らせ、考えに考え抜き、
そして驚くような受け止め方をするかもしれない。
彼女としてはそれは不本意なのである。


でも彼は彼女じゃない。
前述したように彼と彼女では全然違う。
いつも人の話を聞いて驚くような受け止め方をするのは彼女自身なのである。
単純に自分もそうだから、人も同じようにするかもしれない、と思っているのである。
会話の中の彼のたくさんの言葉や気持ちがおそらくは彼女を混乱させた。
彼女の言葉について予測しないことを返す人だと認識されてしまえば
下手すると彼女はこの上司となるべく話さないようにしてしまうようになるかもしれない。

信じられないことだが、ほんとにそういうことを選択してしまうのが彼女なのである。



-彼女の話

執筆者:

関連記事

彼女と大きな存在

彼女と大きな存在

彼女は大きいものをこわがる。 おそらく巨大物恐怖症というやつだと思われるが、一番最初に怖がったものは壁画だった。 小学生の時に学校行事で訪れた公民館に大きなモザイク壁画があり、 振り返った目先に突然現 …

noimage

彼女とゴミ

彼女は意外とエコな人だ。 彼女自身は貧乏性からくるものだと思っているようだが、結構地球に優しいのである。 (寒いというだけで心まで死んでしまう人なので、 冬は暖房がつけっぱなしになってしまうことを除け …

白糸

白糸

ふと気付くと彼女の左手首に新しい傷があった。 熱したフライパンの淵があたり火傷したそうだ。 その火傷は細く長く茶色くなっていて、 今となっては白糸のようになった他の無数の傷跡たちを 否応なしに目立たせ …

noimage

彼女はまだ

彼女はまだ自分の気質についてよく知らない。 彼女はまだ自分の気質についてはじめて書かれた本を一度も読み終えていない。   これまでに3回読もうとしたが、果たさなかった。   1回目 …

noimage

静けさと感情でいっぱいの場所

彼女はときどき美術館に行く。 行ったことのない遠くの美術館へも気になる展示があれば出かけていく。 美術館は大抵街の真ん中にあったりして、 駅の改札を抜け、雑踏を抜け、美術館の入り口を抜けると突然ロビー …

記事内の彼女の絵や写真。
2019年8月
« 7月    
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ HSPへにほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へにほんブログ村 美術ブログへ