彼女の話

破れ仮面

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彼女はそんなに簡単に仮面をつけることはできない。
自分の城、という自分だけの個室の空間にいていきなり”自分”以外にはなれないのである。
彼女がLINEを使わず、電話番号もごく一部の人にしか知らせないのはこの理由が一番にある。


たとえば彼女は仕事に行くときの服や靴は大体何パターンか決めていて、
休みの日にそれらを身に着けることは決してない。
自分で仕事用と決めたその服が制服みたいなもので、彼女が仕事仮面をかぶる際のとても重要なアイテムである。
文字通り、”着替える”のだ。

城に帰れば、城用の服に速攻で着替え、靴下からヘアゴムまですべて変える。
これらの一連の行動は彼女の仮面のつけ外しの決まった流れだ。
面倒くさそうに思えるかもしれないが、これらを毎度確実に行うことで
彼女は社会生活と自分生活を切り替え、双方を問題なく送ることができる。


だから城にいて完全に自分に戻ってしまっているときに、
たとえば職場の人から思いがけずショートメールなどもらってしまっては困るのである。
こういう時の彼女は激しく動揺する。
そして内容によっては小さく苛立ち始める。

こういうことがつづくと彼女は意外なほど行動的になる。
彼女にとっては自身の空間を死守することが生活の第一前提であり、
むしろこういう時仕事は二の次なのである。
これで行動をおこすことによって、自分がどう思われようと失職することになろうともう構わないのだ。
これは少しも大げさに言っているわけではない。
だから彼女は営業職などの頻繁に誰かと繋がっていなくてはならない職には決して就かない。

そうやってわざわざ仕事とプライベートをきっちり分けられるはずの環境で、
無神経な同僚の今・「私」の必然のない連絡を運んでくるこの電子端末を彼女は心から恨む。
それならば気づかなったフリをして無視してしまえばよいと思うのだが、
彼女は「気づいたし、読んだ」。そしてそのことが今でも頭から離れない、
その一体今自分はどうなっているのか分からない、破れかぶれの仮面が彼女を無性に揺さぶるのである。


この現状を打破しようと行動した結果、それが悪い方に転がることはあまりない。
大体が彼女の願うほうへと収束していく。
それにも関わらず彼女を激しく揺さぶった破れ仮面はその後もしばらく彼女に執拗にぶらさがり
解決してもなおその問題についていつまでもいつまでも考え続ける原因となってしまうのである。

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