彼女の話

飲み込んだ空気の行きついた先は

投稿日:

その先は呑気症だった。


最近急に涼しくなって人々が生き生きしている。
ある朝彼女は目を覚まし起き上がってテラスのドアを開けた。
瞬間ぶわぁっとあの懐かしいひんやりと乾いた空気が彼女を一気に包み込んだ。
彼女は驚いたが、まるで旧友に会ったかのように目を細めた。
そして自分の周りを舞う風をひとつも逃すまいとするかのように
何度も何度も「うわぁ、うわぁ」と言いながら口をパクパクさせて飲み込もうとした。

しかししばらくするとひどい胃の膨満感に襲われた。
そしてそれはたちまち立っていられないほどのひどい胃痛に変わったのである。


呑気症は正式には空気嚥下症といって文字通り空気を飲み込んでしまうことで起こる体の不具合だ。
ストレスや嚙みしめ癖のある人に見られることが多く、男性よりも女性に多い。
彼女も数日前からお腹が減っているわけでもないのに頻繁にコポコポ腹鳴がしていたり
匂いのないガス、胃の膨満感による食欲低下やポッコリ張った腹部など異変を感じていた。
彼女はこういった体のサインをいつも「疲れているのかなぁ」で片づけてしまうのでひどくなるまで放置されてしまう。
それどころか今回のように積極的に悪化させるようなアホなことをやっているのである。


痛みに耐えかねた彼女は床に転がっているしかなかった。
そして眺めていた。
夏の間その眩しさを遮断すべく閉じられたままだったカーテンをあの乾いた風がふくらます。
なんとしてでも彼女に触れたいというように”ねえ、入れてよ、入れてよ”と彼女に語りかける。

体の外からも中からも空気に攻められているような気になってきて
「なんだかなぁうるさいさぁ」と彼女は苦笑した。


彼女は秋がいつも少しこわい。
あの凍える大嫌いな季節を嫌でも予期させるから。
「だからまだ入れてあげないよ、悪いけど。
それに今は体の空気のことでいっぱいいっぱいでね」

彼女はどんどん強くなっていく秋風に背を向けて少し眠った。

-彼女の話

執筆者:

関連記事

noimage

冬の彼女

ハッキリ言って冬の彼女はまるで役に立たない。 朝はますます起きなくなり、ぎりぎりまでコタツに居座り、外に出たくないとばかり考えていた挙句仕事に行くのに仕事着を忘れ、遅刻寸前に出社、帰ればエアコンとコタ …

noimage

(no title3)

「おいてく気持ちもおいてかれる気持ちもしってるよ。 そこからはじまったものもそこからつづいてったものも、あったよね。 確実にいえるただひとつのことは、それが今もそこにあるってこと。 それはとてもせつな …

ワガママ

”この人は結局ワガママなんだよ、自分が一番かわいくて一番大事なんだ”

彼女は人に好かれるのも苦手だ。 以前”この人は結局ワガママなんだよ、自分が一番かわいくて一番大事なんだ”と言われ、 彼女は全くもってその通りだと笑ってしまった。 なので彼女はあまり人に予定を合わせたり …

noimage

沿線生活

彼女は昔お金がとてもなかったとき、 線路沿いの安いアパートに住んでいた。 すごく安かったけど、すごくうるさかった。 騒音や刺激に打たれ強い人だって線路沿いの部屋は安くても避ける。 だれだって静かな生活 …

noimage

彼女と自転車

彼女は車の免許をもっていないので、 必然的に移動は徒歩か電車やバス、そして自転車となる。 中でも自転車は彼女にとってとても愛着のある存在である。 エコで経済的で健康的、そして大体いつどこに行くにも一緒 …

記事内の彼女の絵や写真。
2019年8月
« 7月    
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ HSPへにほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へにほんブログ村 美術ブログへ