彼女の話

恣意的彼女

投稿日:

あなたは誰かのことをとても知りたい、と思ったことはあるだろうか。

彼女はあまり自分のことを話さない。
話すが好きじゃないのだ。
でも話さないからこそ余計に人は彼女に関心をもってどんな人なのか知ろうとしてくる。
彼女はいつもそれが嫌だ。

どんなに仮面をうまくかぶっているつもりでも、彼女は少し変わっている。
使う言葉や見ているものや視点が他の多くの人と違う。
言葉は特に違う。

たとえば職場で上司に嫌な思いをさせられたら、
気の優しい同僚は大丈夫か、と声をかけてくる。
彼女はそれに「まぁ粘土にでもして置いときますよ」とぽろりといって笑う。

・・・粘土?


子供の頃はこんな表現のオンパレードで、会話にならないことが多かった。
そして彼女にとって問題は粘土ではない。
「置いときますよ」って一体どこに置いておくつもりなのだ、それが問題なのだ。


読んでくれている方は、もうすでに訳が分からないでこのページから去ろうとしているかもしれないし、いやもう粘土時点で去ってしまっているだろう。
失礼な話で申し訳ないが、彼女もきっとそれを望んでいる。
そう、分からなければそれで終わりで、それでいいのだ。

ただしなまじっかそれが職場の人間など毎日会う近しい存在になってしまうと、
中途半端にしかならない理解を示そうと、フラフラした興味をもって質問攻めにしてくる。
「話したってどうせ分からないくせに」
これまで繰り返されてきた必定の結果を想像しながら、彼女は心の中で悪態をついて仮面の口角を上げ相手のいうことに「適当に」答える。


結局人は他人を理解できない、ということは分かっている。
それは彼女が「おかしな」言葉を使うからだけではなくみんなそうなのだ。
だから彼女は自分のことを話さないし、他人にもほとんど興味を示さない。
分かる努力をしようとしない。
知ろうとすることの意味を忘れてしまっている。



恣意的彼女

-彼女の話

執筆者:

関連記事

ワガママ

”この人は結局ワガママなんだよ、自分が一番かわいくて一番大事なんだ”

彼女は人に好かれるのも苦手だ。 以前”この人は結局ワガママなんだよ、自分が一番かわいくて一番大事なんだ”と言われ、 彼女は全くもってその通りだと笑ってしまった。 なので彼女はあまり人に予定を合わせたり …

noimage

彼女と声

誰にでも何人かはいると思うが、 彼女にも別に悪い人ではないのだろうができれば避けたい人たちがいる。 彼女にとっては特異な声や話し方の持ち主たちだ。 ひとつはとても声が大きい人。 それから声が高い人。 …

noimage

涙の世界

彼女は目に涙をいっぱいに溜めていた。 僕は彼女が一体どこに視線を定めているのか分からなかった。 それはおそらく彼女から見えた世界も同じだったに違いない。 ちょうどプールで水面があなたの網膜を横切った時 …

noimage

彼女の味覚

彼女は薄口を好む。 なんにしても濃い味付けはあまり受け付けない。 自分で食べるだけの時はほとんど味付けは塩だけで済ませる。 あとの調味料は酢と酒、ごま油が好きだというくらいだろうか。 塩だけで済めばそ …

消えた『群集の中の孤独』

消えた『群集の中の孤独』

彼女は最近彼女にしては頻繁に人ごみの中へ出かけている。 用があって出ているのだが、久しぶりに雑踏の中へ出かけて新鮮味があるようだ。 彼女は萩原朔太郎の『群集の中に居て』という詩がとても好きだ。 都会へ …

記事内の彼女の絵や写真。
2019年9月
« 8月    
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ HSPへにほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へにほんブログ村 美術ブログへ