彼女の話

3月9日

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今日は3月9日だ。
3月9日と言えばレミオロメンだ。
最近では卒業ソングの定番らしい。


彼女は卒業式に特になんの思い入れも思い出もないが、
高校の卒業式だけは死ぬほどうれしかったのを覚えている。
10代で一番うれしかったことは何かと訊かれたら高校卒業だと言うかもしれない。
高校が大嫌いだった。


高校で彼女は一度挫折しかけている。
休みを与えられないほどの学習時間と模試と教師の「叱咤激励」は
彼女にとって毎日台風が来ているようだった。
彼女は今も嫌なことは決してしない。
良かれ悪かれ逃げてでもしないのだ。
それが許されなかったのがこの高校時代だった。

教わっているものが一体何の役に立つのか全く分からなかった。
意味がないとしか思えなかった。
国語や英語は内容によってはまだ楽しめたが、
それがすべて試験のためかと思うと途端に色褪せた。

一体自分はここで毎日毎日何をやっているのだろうと苦しかった。
周りができていることが自分にはできなかった。
それは成績がどうとかいうことより、
人が順応している波に彼女だけがその際であっぷあっぷしている横歩きのカニみたいな状態だった。


彼女の心身はストを起こして数ヶ月登校するのをやめた。
時々クラスメイトや担任教師が様子を見に家にやってきた。
それでもしばらく行かなかった。
そのうち教師は彼女をあきらめた。


教師も面倒くさい生徒に留年されても困ると思ったのか、
なんだかよく分からないまま彼女は卒業できることになった。
高校を卒業することほど嬉しいことはなかった。
いつも死ぬほど嫌だった場所にもう行かなくてもいいのだ。
それまで卒業式で一度も涙を見せたことのなかった彼女だったが、
高校の卒業式ばかりは嬉し涙がでるところだったという。

以来彼女は一度も高校の門をくぐっていない。
当時の友人たちやもちろん教師にも一度も会っていない。
卒業アルバムすらどこかへ行ってしまった。


そんなわけでレミオロメンの3月9日は彼女にはあまり響いてこない3月9日なのである。
寂しいやつだと思われても、彼女はそれで良いようだ。



3月9日

-彼女の話

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