彼女の話

3月11日-ある春の日

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彼女はしみだすのを眺めているのが好きである。
紅茶や緑茶の葉っぱや、フレーバーティのパックから
無色透明のばっとした熱さの水の中に
無秩序に延々としみだす色素を見ているのが好きなのである。
それは、それらの色素がついにカップを支配するまでみることができる。

見ていて美しいのは紅茶の茶葉だが、
長く楽しめるのは麦茶のパックである。
彼女は温かい麦茶が好きで、寒い時期でもよく煮出す。
耐熱の細長い容器にお湯を満タンにし、そうっと麦茶パックを水面に置く。
茶葉が水分を吸い込む為に少し時間を置くと、
何かの記憶を思い出したかのようにある瞬間つーーーと細く長い息を吐き始める。
自ら吸い込んだ熱湯の重さでぐんぐん沈んでいくパック。
その速さに比例して容器の中の気配は濃くなっていく。

彼女はずっとその茶色い道すじを見ている。
下に下に下に、やわらかい濃淡を生み出しながらフワフワと拡がっていく。
視界が穏やかに茶色く変色していく。
向こう側が少しずつ見えなくなっていく。


どのくらいの時間が経っただろうか
いつの間にかどこまで麦茶が広がりどこまでが容器で
色素が闇に染まったのか闇が道を取り込んだのか
それでも彼女はその前でその中で今も見つめている。






-彼女の話

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